啄木百人一首

 今日ハ医学的ノ実験ヲ試ミムト思フ。


 石川啄木ナル患者ノ罹患セル「ダメ黴菌」(Damenococcus akireus)ヲ、小倉百人一首ニ感染シタラバ如何ナル症状ヲ呈スルカ観察スコトニヨリ、我ガ国ノ医学界ニ些カノ貢献ヲ為サムト欲スルモノナリ。


秋の田のかりほのいほの苫を粗(あら)み
わが生活(くらし)楽にならざりぢっと手を見る


 五七五七七ガ滅茶苦茶タリ。「苫を粗む」ノ意ガ余ニハサッパリ理解(わか)ラネドモ、労働ノ一種タリシカ。


田子の浦にうち出でてみれば白砂に
われ泣きぬれて蟹とたはむる


花の色はうつりにけりないたづらに
われ泣きぬれて蟹とたはむる


これやこの行くも帰るも別れては
われ泣きぬれて蟹とたはむる


 蟹ト泣ヒテバカリデアル。


わたの原八十島(やそしま)かけてこぎいでぬと
われ泣きぬれて蟹とたはむる


久方の光のどけき春の日に
われ泣きぬれて蟹とたはむる


 ソロソロ蟹ト別レテクレヌカ。


奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の
人ごみの中にそを聴きにゆく


 状況ガヨクワカラヌ。


このたびはぬさもとりあへずわが生活
楽にならざりぢっと手を見る


君がため春の野に出でてわが生活
楽にならざりぢっと手を見る


夏の夜はまだ宵ながらわが生活
楽にならざりぢっと手を見る


 ワカッタ、ワカッタ。貧乏ハヨクワカッタカラ、手バカリ見ルノハ止メタマヘ。ソノ手デ家計ニ資スルコトヲ為シタマヘ。


天の原ふりさけ見れば春日なる
伊藤のごとく死にて見せなむ


 天ッ晴レ、男子ノ本懐ナリ。


 ……ト思ッタラ、


誰(た)そ我にピストルにても撃てよかし
ながくもがなと思ひけるかな


 急ニ情ケナクナッテシマッタ。


しのぶれど色に出でにけり我が恋は
空に吸はれし十五の心


愛犬の耳斬りてみぬ春の日に
しづこころなく花の散るらむ


 存外ナ名歌タリ。

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「今日の嘘八百」


嘘三百七十四 当時からブタボクと陰口叩かれていたそうな。


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