値段と価値

 普段、経済学などというオソロシげなものにはなるべく近寄らないようにしているのだが、それでも大学の最初の頃にちょっとだけ教わった覚えがある。


 まだわたしが失神的美青年と言われていた頃のことだ(自分で勝手に気を失ってしまうのである)。


 先生が「人間は合理的選択をする」といきなり言い出して、驚いた記憶がある。生まれてこの方、そんなことをした覚えがなかったからだ。


 今思えば、その先生が言いたかったのは「ぼーっとしていても話が始まらないから、とりあえずそういうことにしておく」ということであり、「人間は打算で動くものだ」ということではなかったかと思うのだが、今となっては確かめようがない。


 さて、ここでいきなりウニというものが登場する。


 ウニは高い。寿司屋でうっかり頼めない。
 うまいといえばうまいけれども、値段に引き合うほどのうまさかというと、わたしにはそう思えないのだ。


 割に飽きやすい味でもあり、あれがやたらとそこらへんで獲れるようなら、食卓で「ええ〜、またウニぃ」などと文句を言われてしまう気もする。


 人間というのは本当に合理的選択なぞしているのだろうか。


 同じウニの中で値段の違いがあるというのはわかる。うまいウニが高く、さほどでもないウニが安い、というのは合理的選択の結果としてもいいと思う。
 いわば、ウニの内的価格秩序とでも言うべきものがあるのは、納得できる。


 ……自分で「内的価格秩序」などと言い出して、頭がウニになりつつある。


 しかし、ウニと他の寿司ネタを比べたとき、ウニがやたらと高くて、他のうまい寿司ネタ、例えば、イカが安い理由がよくわからない。


 いやね、ウニに比べて、イカのほうがたくさん獲れる、というのはわかるけれども。しかし、ウニが高くて、人々があれを食うとき、アホみたいにヨロコぶ理由が今イチわからないのだ。
 もっとイカでヨロコんだっていいじゃないか。


 トロやイクラもそうで、味に比べて、どうもあの値段、納得できないのである。


 特にトロがわからない。
 昔の魚河岸では、マグロをさばくとき、トロは捨てていたという。


 まあ、わたしに言わせればゲスな食い物である。食うと、マーガリンを食っているような心持ちになる。
 男はやっぱり、赤身だ。物事はとにかく鉄火に行かなければいけない。


 話がどんどんそれている。


 ちょっと戻して、ウニのあの値段。あれは何で決まっているのだろう。


 他と比較してウニがうまいから、とは思えない。
 まあ、好き嫌いではあるが、新鮮なイカと新鮮なウニのどっちを取るか、と言われれば、イカにつく人のほうが多いのではないか。少なくとも、ウニのほうが圧倒的多数派になるとは思えない。


 しかるに、ウニはイカに比べてはるかに高い。


 希少価値だろうか。つまり、珍しいものだから高いのか。
 だとしたら、安くてうまいものを食ったほうが、よほど合理的選択をしているように思うのだが。


 あるいは、値段が高いことをヨロコんでいるところもあるんじゃないか。
 もしそうなら、「高いものを食っている自分に価値を見出している」ともいえ、イヤラしい話である。


 誰か、ウニの値段の高さについて、経済学的に説明してもらえないだろうか。


 ただし、わたしには中学3年生程度の学力と理解力しかなく、5歳児程度の我慢しかできない。
 なるべく簡単に、短く、スパッと、鉄火に教えてもらえるとうれしいのだが。