伝法なハムレット

 つと思い立って、ハムレットの例の有名な一節を、東京の下町言葉、というより、落語弁に翻訳してみる。


 うまくいくかどうかは、やってみなきゃわからない。


 生きるか死ぬか、それが問題(もんでえ)よ。
 無理無体(むてえ)な定めの矢玉ぁこらえるか、ドスぅ手に取って、やってきやがる厄介事どもを、当たるを幸いやっちまうか。どっちが男らしい生きざまか。
 死ぬってなあ、眠っちまうってこと――そんだけのことよ。眠っちまえば、胸の痛みも、体の苦しみもなくなっちまわあ。願ってもねえ終わり方じゃあねえか。
 死ぬってなあ、眠っちまうってこと――いや、眠りゃ、夢ぇ見るってこともあるか。そいつぁ、困るな。この面倒くせえ人生ってやつから抜け出してよ、死の眠りについたとき、どんな夢ぇ見るのか。そいつを考(かんげ)えると、ま、誰だってためらうわな。
 長え人生をひでえもんにしやがる、心配(しんぺえ)事ってやつがあンのよ。じゃなきゃあ、世間様からの悪い噂や、おかみのまちげえや、威張りくさった野郎の蔑みなんぞ、誰がこらえるかってンだ。不実な恋の悩みやら、ちんたらしたお裁きやら、威張りくさったお役人やら、大目に見てりゃつけあがる唐変木の傲慢無礼、ヘン、誰があんなやつらの言いなりになるかよ。匕首(あいくち)の一突きで、この世たぁ、とっととおさらばよ。
 でもよ、この辛え人生の坂道を、文句たれながら汗水たらたら登ってくのも、何のこたあねえ、死んだ後のことが怖えからよ。旅ぃかけたやつらが、ひとりも帰ってきたことのねえ、あの世とやら。ま、心が鈍ンのも無理はねえやな。知りもしねえ他国で苦労するよりゃ、慣れたこの世の煩え(わずれえ)に、こづかれてるほうがまだましか。
 ああ、こうやって考(かんげ)えるから、臆病になっちまうンだ。腹ぁくくった生々しい血の色が、思い煩って青白え色に塗り固められちまう。のるかそるかの大仕事も、考(かんげ)えてるうちに不首尾に終わり、やっちまう名分まで、ア、なくしちまわあなあ。


(原文:「To be, or not to be - Wikipedia」、参考訳:「ハムレット」、シェイクスピア著、福田恒存訳、新潮文庫ISBN:4102020039


 落語弁というより、歌舞伎か剣劇みたいになってしまった。


 松竹さん、買わない?