お召し列車

 昨日、田舎の夜の列車に乗った。


 昼、乗ったときはディーゼルの一両きりの列車(一両で“列”車はおかしいか)だったが、帰りは二両編成。
 後ろの車両はよくあるボックス席のタイプだった。


 ところが、前の車両では横長の座席が両側に続いている。
 ドアは前後にしかなく、その間を長ーいシートがつないでいるのだ。


 後ろの車両には人がいたが、前の車両にはいなかった。
 せっかくだから、前の車両に移った。


 運転手を除けば、その車両に乗っているのはわたしひとりである。
 横幅十数メートルの“ひとつ”の椅子に腰掛ける。目の前には、やはり十数メートルの“ひとつ”の椅子。


 外は山や田んぼのはずだが、夜なので何も見えない。
 時折、集落に人家の明かりが見えたり、不粋なショッピングセンターの夜間照明が見えるくらいである。


 いささかトウの立った車両だが、お召し列車に乗っているようで、不思議な気分だった。あ、お召し列車には随行員が同乗するか。
 自分専用の車両を買って、運転させているみたいで、楽しかった。


 車内の蛍光灯が侘びしさを醸し出して、またいい感じだ。


 夜の闇の中、専用車両“稲本号”はトロトロと単線を行くのであった。