殺せばいいってもんでも

 スパイク・リーの初期の映画では、いつも、終わりのほうで誰かが“Wake up(目を覚ませ)!”と叫んでいた記憶がある。


 といっても、長らくスパイク・リーの映画を見ていないので、どの作品のどのシーンで誰が叫ぶのだったかは心許ない。


 話は飛ぶが、わたしにはテレビの2時間ドラマを見る習慣がない。
 しかし、新聞のテレビ欄で、コマ2時間分を埋めるために長々と(「!」だらけで)書き連ねる売り文句や、下のほうにある内容紹介文を読むのは割に好きである。


 今朝の朝日新聞には、こんな紹介文が載っていた。


 寿鶴子(泉ピン子)は独身のウエディングプランナーであり、披露宴の司会者。(中略)
 今度担当する花嫁の真弓(増田未亜)はわがまま育ち。間際に料理を変えたり高校時代の陶芸部特別講師の著名な陶芸家(小野寺昭)に引き出物を頼んだり。


 のんびりした話のように思える。


 問題は、この後だ。


 披露宴の直前、真弓の携帯に不吉なメールが届き、真弓はお色直しの間に刺殺される。


 いきなり、刺殺、と来た。


 で、番組のタイトルが「名司会者・寿鶴子 殺人スピーチ」(最近の2時間ドラマの殺人事件もの、だんだん、「働くおじさん〔おばさん〕」化している気がするな)。


 んー、殺せばいいってもんでもないと思うのだが。


 番組の内容紹介文には番組の試写を見た記者の感想が載っている。


 妹の亀子(柴田理恵=同中央)や、親友でバツイチのブライダル会社社長(岡本麗)とのやりとりは、笑いを誘うなかに寂しさや思いやりが漂う。謎解きの緊張感ともうまく両立している。


 ……って、そういうことじゃなくてさ。真弓さん、お色直しの間に刺殺されるんスから。


 例えば、これが殺人ではなく、レイプだったら、どうだろう? 「名司会者・寿鶴子 強姦スピーチ」。
 殺人のドラマなら多くの人がぬるーく楽しみ、レイプだと非難Go! Go!になるのだ。


 スパイク・リーの映画の“Wake up!”というセリフは、狭い世界の中で延々と続いている争いに対する、「お前ら、いったい、何やってんだ。外へ出て、自分達の姿を客観的に見てみろ!」というメッセージだったと理解している。


 この手の、とりあえず人を殺しちゃう2時間ドラマや、それを楽しんでいる人々にも、“Wake up!”と言いたくなる。


 ホント、真弓さんはね(誰だか知らんけど)、シ・サ・ツされるんスから。


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