何かねえ

 液晶のモニターをつけている電車の車両が増えてきた。
 モニターはドアの上についていて、天気予報や次に止まる駅の情報のほか、広告も流す。


 大して面白いものでもないけれど、満員電車だと本も読めないで退屈だから、多少は時間をやり過ごす助けになる。
 鉄道会社としても広告収入を得られる。まずまずの手だてではないか。


 昨日、ぼんやり電車の液晶モニターを見ていたら、ダイエット食品のCMをやっていた。


 画像は、安っぽい。
 軽装のスマートな日本人(たぶん)の女性が出てきて、カメラ目線でやたらとニコニコしている。


 何をそんなにうれしいのだろう、と見ていると、「かつての私」の写真が出てくる。体重70kgあったのだそうだ。
 どうやら、そのダイエット食品を食べるようになったら痩せることができて、「どお? あたし、スマートでしょ?」ということらしい。


 それにしても浮かれすぎだ、そんなにケラケラ派手に笑い続けることもなかろう、あ、今、くるっと回った、何だそりゃ?
 と見ていると、若い白人の男性がカメラでその女性を撮っている。


 女性はモデルというほどの容姿でもないから、おそらく、「ダイエットができて、白人の若いボーイフレンドもできました!」というストーリーなのだろう。


 何かねえ、と、思った。


 別にその白人男性に嫉妬しているわけではないよ。嫉妬するほど、イカした女性ではなかった。
 なぜにワシら、ニッポン男児を選ばぬのか! と、怒りに燃えたわけでもない。


 広告制作者の発想があまりに安直で、んー、と思ったのだ。


 白人男性のボーイフレンド(女性のボーイフレンドというのはありえないけど)は、たぶん、「痩せると、いいことがある」の「いいこと」を意味するのだろうけど、その「いいこと」の表し方があまりに安直じゃないか。


 ああいうシーンで、ボーイフレンド役として、マレー系の人々やネイティブアメリカンが選ばれることは、まずない。
 なぜなら、一般的には、彼らは日本人女性の憧れの対象ではないからだ(もちろん、個人的に知ったらどうか、というのは別の話だ)。


 わたしがあの広告制作を担当したら、禅寺の坊主とか、神主とか、山伏とか、虚無僧とかに集団でパチパチ写真を撮らせるね。
 ダイエット嬢は、くるくるくるくる、もう、その場で好きなだけ回っていなさい。