続・奪い合いスポーツ

 さて、一昨日(id:yinamoto:20050226)書いた、奪い合いスポーツの続きである。


 最初は、「権力を奪い合うスポーツというのはどうか?」と考えた。しかし、権力というのはどうも抽象的で、うまく想像できなかった。
 演説して人に投票してもらう、というのではただの選挙だし、係長のポストを奪い合うというのではあまりに悲しい。


 そういえば、サッカーで奪い合うボールは権力の象徴だ、野球(石のようなボールと木の棒で陣地を取り合う)は合戦の象徴だ、という話を聞いたことがあるような、ないような気がするかもしれなかったりするよく晴れた月曜の午後なのだ。


 奪い合うモノとしてわかりやすく、コーフン的であるといえば、やはり、お金だろう。


 お金を奪い合うスポーツ、というのを考えてみたい。


 ラグビーのように、金を持っているやつにわっといっせいに飛びかかって奪い合う、というのも、もちろん、考えられる。しかし、それではあまりに浅ましい。


 ここはもっとエレガントに、スリリングに行きたい。
 すなわち、スリである。


 スリのどこがエレガントなんだ、と思う方もいるかもしれないが、私は、彼らが長い歴史の中で磨き上げてきたテクニックを、とてもエレガントだと思う。


 もちろん、犯罪ではあるし、盗まれたほうからすると迷惑だ。
 だが、これもスポーツに昇華してしまえば、見る者を楽しませることができ、スリの人々の更正にもつながる(逆に、このスポーツで磨いたテクニックを「実戦」で使うやつが出てくる、というマイナス面も否定できないが)。


 さて、ルールであるが、スリの集団2チームに分かれる。
 片方のチーム(仮にチームAとする)のひとりがスーツの内ポケットか尻ポケットに財布を入れて、試合開始だ。全員が散らばる。
 相手チーム(チームB)は、誰が財布を持っているか知らない。だから、どんどんチームAの選手に接触していく。その際、内ポケット、尻ポケット、それぞれを探らなければならない。


 持っている選手を見つけたら、スる。まんまと成功したら、スった選手はわーっと駆け出す。ターンオーバーと呼ぶ。
 チームAは「ドロボーッ!」という古式ゆかしい叫び声を挙げながら、その選手を追いかける。
 チームBも、財布を守るため、集まってくる。そうして、チームAにわからないように財布の受け渡しを行う。その際、渡したように見せかける、というフェイントもあるだろう。


 そうして、今度はチームAがチームBの誰かが持っている財布を狙って……と、そんな調子で財布をスり合うのだ。


 何を持って得点とするか、だが、ゴール(歴史に敬意を表して、アジト、と呼ぶ)に駆け込む方式と、規定の時間が経ったときに財布を持っていたほうにポイントを与える方式が考えられる。


 どちらでも面白いと思うが、今のところ、私は時間制のほうを押したい。アジトに駆け込む方式だと、早々と点が決まりすぎるかもしれない。探り合い、という、このスポーツの最大の面白さを十分に引き出せない気がするのだ。


 試合会場は、サッカーのような平坦なピッチでもいいけれども、できれば、映画セットのような家々の立ち並ぶ会場が、それっぽくていいと思う。
 観客席から見て死角ができるところがやや問題だが、要所要所にテレビカメラを設置すれば、映画の一シーンのような、いい感じの絵を見られるだろう。


 このスポーツの一番のポイントは、情報戦にある。


 選手同士が近づいては、
「あいつは持っていない。少なくとも内ポケットにはない」
「あっちのほうが怪しいんじゃないか」
「○○は持っていないと言ってたぞ」
「あ、さっき、フェイントのふりして、本当は渡したに違いない。チキショー、はめられた!」
 などと、相手チームにはわからないように、小声でささやき合う。


 財布を持っている側からすると、持っていない選手に相手チームの選手を引きつけたほうが、当然、有利だ。あたかも持っているかのように見せかけることが勝利の鍵になる。


 と、まあ、テクニックと知力の問われる、非常にゲーム性の高いスポーツになると思う。
 見ているほうからすると、スリの鮮やかな腕前や、受け渡しの技術、チームプレーの妙を眼前にして楽しめる。さらに、「誰が持っているのか」、「どうやってそれを隠しているのか」、「スる側は今、どう狙いをつけているのか」などと、知的コーフンをたっぷり味わえるはずだ。


 シーズン終了後には、最優秀選手を選ぶ。沢村賞サイ・ヤング賞のようなもので、名称は、もちろん、仕立屋銀次賞だ。


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