ステージと勝負

 ミュージシャンや芸人がステージにあがるときは、どこか「勝負!」という感覚があるんじゃないかと思う。いやまあ、最初から客を手の内にあるかのように捉えている人だっているんだろうけど、基本的には客の反応はやってみないとわからず、先行きが読めないというところはスポーツの試合や賭け事にも似ている。

 次のビデオのジェリー・リー・ルイスなんかは、圧勝である。

 素敵ったらありゃしない。途中で足で弾くところもイカすし、最後のほうのパフォーマンスなんて何だかわからないけどとにかく圧倒的だ。音楽的には何の意味もない奏法だというところも素晴らしい。細かいが、客との勝負という点では、仏頂面で始めるというところも彼の「手」なんだろう。

 この"Legends of Rock 'n' Roll"というビデオは、80年代の終わりか90年頃に確かローマでやったライブじゃないかと思う。リトル・リチャードやジェームス・ブラウンB.B.キングなども出ている。DVDとして短縮版が出ているが、長いバージョンのVHSのビデオも見たことがあり、最高だった。見つけたら、ご覧になることをおすすめする。

 同じライブから、ボ・ディドリーのパフォーマンス。この人も勝った。

 最後の腕を振り上げるところは勝者のポーズである。

 こういう圧倒的なパフォーマンスをやったとき、演者のほうは「勝った!」ということだろうが、では、目の前でこれをやられたほうは「負けた!」ということなのかというと、よくわからない。まあ、「脱帽」ということなんだろうが、負けたほうがうれしいんだから、聴衆というのも変態的である。演者は何と戦っているのだろう。聴衆の厳しい評価基準だろうか。

 圧倒的といえば、やはりザ・バンドの「ラスト・ワルツ」でのヴァン・モリソンのパフォーマンスをおれはあげる。

 歌い出す前のヴァン・モリソンはちょっと不安げに見える(非常に神経質な人だと聞いたことがある)。スポーツ選手が試合前にナーバスになるような感じなのかもしれない。

 最後の1分半ほどは凄すぎて、いつ見ても笑ってしまう。こういう奇跡的な瞬間がごくまれに音楽にはある。ヴァン・モリソンの圧勝だ。このとき目の前にいた聴衆ばかりでなく、映画を通じて見る者を相手に何十年と勝ち続けているんだから、サッカーでいえば伝説のゴールみたいなものである。