権太楼

 昨日、友達と、柳家権太楼の「日曜おさらい会」というのを見に、池袋演芸場へ行ってきた。


 権太楼は50歳くらいだろうか、実力者だそうだ。「だそうだ」と無責任に書くのは、私は初めて聞いたからである。


 「日曜おさらい会」は月に一度やっているのだそうだ。独演会というほど大げさなものではなく、寄席の客を前にいろんなネタを試しにかけてみる、という会である。
 昨日は「三枚起請」と「芝浜」をやった。


 最初に弟子の前座が出てきて、「寿限無」をやった。20歳前後だろうか、頭はクリクリの坊主刈りで、田舎の高校生が着物を着ているような具合だった。


 これが見事な棒読みで、生徒が当てられて、国語の教科書を読んでいるような調子であった。「ごいんきょさん、あたしはこんなにんげんですからー」。どんな人間なんだか、さっぱりわからない。
 こんな調子で噺を最後まで持っていけるのかと、途中で心配になった。


 次に権太楼が出てきて、「実は、あれは今のが初舞台で」と説明した。
 「その楽屋の緊張感たるやもう――それにも増して、客席の緊張感のすごいこと」。客席がドッと沸いた。「この子、大丈夫かしら、と、親が子をハラハラ見守る心境ですな」。


 さすがに権太楼の噺は楽しめた。


 「三枚起請」は、町内の三人が女郎からもらった起請文(年季があけたら、一緒になると約束する文書)を大切にしている。それが実は同じ女郎からのものだったとわかり、スッタモンダするという噺だ。
 権太楼は三人のキャラクターの描き分けがわかりやすい。表情が大げさなので、色恋沙汰にはまだ早い子供でも笑えそうな感じだ。


 「芝浜」は有名な人情話だ。ストーリーは、長くなるので、書かない。


 権太楼は、みっちり泣かせにかかる。
 私は、もっとクスグリの多い人情話の方が好きである。わっと笑わせて、スッといいところを差し込んでくれれば、それで十分、情は伝わる。あんまり湿っぽくなると、重っ苦しくていけない。


 やっぱり、落語は、粋に、陽気に、というのが、いい。というか、好きだ。