実家

 ふと気になった。日常会話でごく普通に使っているんだが、日本語では親の住む家のことを「実家」と呼ぶ。文字通りに捉えれば「実の家」であって、それでは実家に対して自分が今住んでいるところは「仮家」なのだろうか。

 おれの場合、富山で生まれ育って、数年前に親が京都に引っ越した。今、おれのいる東京の家のほうが住んでいる期間は長いのだが、それでも京都の親の家を「実家」と呼ぶ。してみれば、親の家を「本当の家」、自分の家を「仮の家」というふうにとらえるのかというと、必ずしもそうではないようだ。

 きちんと調べたわけではないが、自分の家がたとえば東京にあって、親の家も東京にある場合には実家とはあまり呼ばないような気がする。同じ地域に自分も親もいれば、実家という言い方をしないのだ、たぶん。

 ただ、これも場合によるのであって、同じ地域に住んでいても、「夫の実家」「妻の実家」という言い方はしそうで、「本来、自分が住むべき(住んでいた)場所」から出て家を形づくると、元いた場所を「実家」と呼ぶのかもしれない。

 あくまで仮説だが、「実家」という言い方は核家族化、ひとり暮らし化と関係していそうだ。昔は親の家を引き継いで住むケースが多く、別の家に住むとしても同じ地域に住むことが多かった。せいぜい、嫁入りや婿入りで別の家に住むようになったとき、親のいる家、つまり出てきた家を「実家」と呼んだ。それが、若い者が地方から都市に出ることが多くなり、昔の嫁入り、婿入りの「出た家」を転用して、親の家を「実家」と呼ぶようになった。とまあ、そんなところだろうか。

 まあ、あくまで例によって当てにならないおれの霊感によるものなのでちがっているかもしれないが、「実家」という言い方、社会のいろいろな変化や家族観の歴史もからんでなかなかに奥深いものがあるように思う。