牛乳と牛

 お米や野菜などで、生産者と消費者が直接つながる形がある。「どこそこの誰それ」が作ったお米、野菜と知ったうえで定期的に購入する。農家からのおたよりが来たり、時には購入者がその農家に遊びに行ったりすることもあるらしい。親戚が送ってくれるお米や野菜の拡大版みたいなものだろうか。食材だけでなく、どこか精神的なつながりを感じられるところがミソである。

 それでふと思いついたのだが、牛乳に、その乳を出した乳牛の名前を冠してはどうだろうか。牛乳パックそれぞれに、たとえば、「スミレの乳」「めぐみの乳」「銀子の乳」と刷るのだ。牛乳を飲むとき、「ああ、おれは今、岩手県花巻市に住むスミレさんの四つの乳腺から出た乳を飲んでおるのだなー」などとロマンチックな気分にひたれるだろう。

 まあ、現代の牛乳の大量生産方式では個体別に牛乳パックをつくるのは難しいかもしれないが、そこはそれ、IoTだか、ICタグだか、何かそういうものを利用すればいいだろう。知らんけど。

 同じ伝で、牛肉に個体名を冠することも考えられる。「太郎のリブロースステーキ」「ハナコのハンバーグ」「デビッド源五のバラ肉で作ったすき焼き」「しげみちゃんの舌のタン塩」などと、おそらく牛乳より個体認識はさせやすそうだが、いささか猟奇的に感じられるところが難である。