昨日書いた「戦場のピアニスト」は重たい映画だ。「感動」などという言葉で簡単に片付けてはいけないものがある。
しかし、それはそれとして、ピアニストはいいよな、ああいう映画でサマになるから、とも思う。
映画のクライマックスで、廃墟の中を逃げまどうユダヤ人ピアニストのシュピルマンが、ドイツ軍のホーゼンフェルト大尉と邂逅する。
「あなたは何者ですか?」
と訊ねるホーゼンフェルト大尉に、
「ピアニストです」
と答えるシュピルマン。
大尉は、廃墟の中、奇跡的に残っていたグランドピアノの元へシュピルマンを連れていく。ピアノの前に座り、少しとまどいを見せた後、シュピルマンは鍵盤に指を置く。やがて流れ出す美しく悲しいメロディ――。
シュピルマンがピアニストではなく、バイオリニストやチェリストでもサマになったろう。ファゴット奏者の場合、戦場にたまたまファゴットが残っているどうかは疑問だが、それでも、絵としては、音としては格好がつく。しかし、もし彼がドラマーだったらどうであろうか。
「あなたは何者ですか?」
と訊ねるホーゼンフェルト大尉に、
「ドラマーです」
と答えるシュピルマン。
大尉は、廃墟の中、奇跡的に残っていたドラムセットの元へシュピルマンを連れていく。ドラムセットの前に座り、少しとまどいを見せた後、シュピルマンはスティックを握る。やがて戦場に鳴り響く大音響――。
「ドンガラガッタ、ドンガラガッタ、ドドンガ、ドンガラガッタ、ピシピシピシーン」
やはり、あたりにドイツ兵がうようよいる中で、ドラムソロはまずいと思うのである。
ドラマーもまずいが、パーカッショニストだともっとまずい気がする。何せ、「ドラムはバカでもできる。パーカッションはバカでないとできない」という悪口があるくらいだ(パーカッショニストの方、すみません)。コンガをパカラパカラと叩きながら、「キスしてム〜チョ!」などと叫んでは、ホーゼンフェルト大尉の心証も悪かろう。
では、もし「戦場の三味線弾き」であったらどうか。
「あなたは何者ですか?」
と訊ねるホーゼンフェルト大尉に、
「お座敷芸人です」
と答えるシュピルマン。
大尉は、廃墟の中、奇跡的に残っていた三味線の元へシュピルマンを連れていく。座布団の上に座り、少しとまどいを見せた後、シュピルマンは撥を持つ。やがて流れ出す三味線の粋な音色――チントンテン、チトトトテン。
「このォ袖ェでェ〜、ぶッてェやりたいィ〜、(ハ、)もし届ォ〜くならァ今宵のォ、(ハ、)ふたぁりィにゃあァ〜、邪魔ァな〜月ィ〜」
いくらいいノドを聞かせたとしても、シュピルマンの運命は風前の灯であろうと思うのである。
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