スーパーマン

 有名で、何となく知っている気になっているのに、実はよく知らないもの、というのがある。
 わたしにとっては、スーパーマンがそうだ。


 現代の日本に生まれて、スーパーマンについて全く何も知らずに生きていくことは難しい。調査したわけではないが、まず間違いなく、そうだ。
 水色のピッチリした服に赤いパンツを履き、マントをはためかせて空を飛ぶ白人男性。ファッションセンスには疑問符がつくが、正義の人なので、不問に付されている。


 そのくらいの知識はたいていの人が持っているだろう。


 しかし、それ以上の知識となると、少なくともわたしはほとんど持っていない。


 子どもの頃に映画化され、ヒットしたのは覚えているが、映画はたぶん、見ていないと思う。
 いや、いつかテレビでやっているときに、しばらく見ていたかな。まあ、その程度だ。


 原作の漫画のほうは、何かに引用されていたものを1、2ページ見たような気がする。これまた、曖昧だ。


 たぶん、わたしはあまりスーパーマンに興味がないのだろう。たまに、この日記で何かネタを思いついたとき、道具として水色赤パンツ男に登場してもらえば、十分だ。


 わたしが何となく思っているスーパーマンの登場シーンは、こういうものだ。


 街を行く誰かが、突然、立ち止まり、空を指す。
「あれは何だ?」
「鳥だ!」
「飛行機だ!!」
「いや、スーパーマンだ!!!」


 実際にこういうシーンを、漫画なり映画なりで見た覚えはないのだが、なぜかこの一連の会話が典型として私の灰色の脳細胞(半分は腐りかけている)に刻み込まれている。


 しかし、街を歩いていて、何かが空を飛んでいたからと言って、「あれは何だ?」と訊く人って、本当にいるのだろうか。
 しかも、「鳥だ!」、「飛行機だ!!」と、ごく常識的な答で対応してくれる人までいる。フツー、本当に鳥だと思ったら、「(何だ、こいつ?)」となるべく関わらないようにして、スタスタその人から離れると思うのだが。


 少なくとも、見知らぬ人との間には一定の距離を置くこの東京砂漠では、上のような会話は成り立たないはずだ。


 あえて、そういう会話があったとして、リアルに書くと、こんな会話になると思う。


「あれ、何? ほら、飛んでる……」
「鳥、じゃない?」
「んーと、飛行機だと思うけどなあ」
「お、スーパーマン、みたいな」


 どうも、間の抜けた会話になってしまうが、ゆるい世の中だ。仕方がない。
 あるいは、


「あれは何だ?」
「鳥だ!」
「飛行機だ!!」
「そうですか!!!」


 と、力強く納得されてしまうと、スーパーマンとしては「僕だよ、僕!」とアピールしたくなるだろう。
 しかし、そこは己のためでなく、正義のために戦う水色赤パンツ男。ぐっと我慢の子なのであった。


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