もし煙草が全面禁止になったなら

 わたしは煙草を吸わないが、煙草の話は結構好きである。もう少し細かく書くと、煙草の話を通して、いろいろな人間模様というか、人間の面白さがかいま見えることが往々にしてあり、それが面白い。

 先日、人と話していて、近年の煙草包囲網の話になった。公共空間や会社での締め出し、分煙、値上げ等々、煙草を吸う人にとっては真綿で首をじわじわ絞められるような感覚があるのだそうだ。「ダメならダメで、いっそ法律で全面禁止にしてくれれば諦めもつくのに」と言いながら、その人は煙草の煙をふーっと吐いた。ちょっと笑いそうになったが、その気持ちもわからぬではない。その人には、やめられればいいのに、という気持ちがどこかにあるのだろう。煙草を吸うことに、甘やかなダメの喜びみたいなものもあるのかもしれない(あくまでその人にとっては、である。一般論ではない)。

 では、国で全面的に煙草を禁止したらどうなるのだろう。密輸・密売みたいなことがはびこり、喫煙者はトイレや、会社の倉庫なんかで価隠れて密売の煙草を吸うようになるのか。まるで中学生の喫煙である。いい大人がネクタイゆるめて車座になってしゃがみこみ、貴重な煙草をまわし飲みしながら、「課長の野郎がよ〜」なんてグチったりするのも、それはそれでラブリーな光景だと思う。

 それとも、話に聞く昔のアメリカの禁酒法時代みたいに、非合法の煙草バーみたいなものがあちこちにできるのだろうか。しかし、何となく日本ではそういうふうにならない気がする。いわゆるホタル族、マンションのベランダなんかに夜ぼんやり煙草の火がぽちぽち灯っているのを見ると、ひとりで、あるいは少人数で、こっそりちまちま煙草を吸うのがしっくり来るように思う。

  妻に負け 昔を思うや ホタル族