前座の下町口調

 落語の会に行くと、たいてい、「開口一番」と称して、最初に前座さんが出てくる。


 遅れてくるお客さんもいるし、一種のウォーミングアップの意味もあるのだろう。何より、入門してそれほど時が経っていない前座さんにとって、客の前で話すのは大きな経験になるのだと思う。


 まあ、やはり、たいていの前座さんはあまり上手くない。客のほうもわかっているから、まずまず温かく見守っている。


 上手くないのはしょうがないのだが、あの下町口調はどうにかならないのか、と思うことがある。


 東京の落語は、町人の言葉だった下町言葉を基本に続いてきたし、いい下町口調で聞くと、何とも言えない心地よさがある。


 前座さんにも、下町口調への憧れがあるのだろう。あるいは、そういう口調で師匠達から習った、ということもあるかもしれない。


 噺のほうは拙い下町口調でも、まあ、そういう型だから、と我慢できる。慣れて、上手くなってください、と思う。


 しかし、マクラまで下町口調で、「シゲ(ひげのこと)をアタるってえと」などとやられると、わざとらしいなあ、とちょっとシラケてしまう。
 彼ら、普段、そんな口調で話していないと思うのだが。


 たぶん、少なくともわたしは、噺=作品、マクラ=噺家本人の素の話、というふうに捉えているからそう感じるのだろう。


 下町口調がこなれてくるまで、マクラは普段の素の口調でやって、噺に入ったら下町口調でやる。それでいいと思うんだがねえ、ってんだい、ヒちめんどくせえ、この丸太んぼうめぃ。