- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 1999/01
- メディア: 単行本
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「稀代の業師 舞の海」というVHS2巻セット。舞の海の主な取組の映像集だ。
いやー、笑った、笑った。声をあげて笑った(別に忍び笑いしなければならない理由はないのだが)。
わたしはあまりに凄いものを見ると笑ってしまう癖がある。
そういう“凄さ”に対する笑いと、取組している本人達は大真面目なのだろうが、舞の海が土俵に立つと、他の相撲では見られないような状況が生まれてしまう。そういう“状況”に対する笑いもある。
舞の海は身長160cm台。体重はおそらく最も重いときでも、100kgなかったろうと思う。小兵中の小兵だ。
そのハンデを奇手でどうにかしようとする。
立ち会いで相手の目の前でパンと手を叩く「猫だまし」、ジャンプして、相手の後ろにまわりこむ「八艘飛び」は有名だ。それから、相手の中に入って左まわしをつかむと、下手投げ、内掛け、内無双と、いろいろな決め技を持っている。
相手は舞の海の奇手を警戒して、出方を見ようとする。そうすると、土俵の上で2人してつっ立ってしまう、なんていう奇妙な状況が生まれる。お互いに警戒して距離を保ったまま、土俵の上をじりじり移動する。あのね、ボクシングじゃないんだから……。
あるいは、何と呼ぶのか知らないが、プロレスの出だしで見るような、両手を上で握り合っての力比べ(なのか)になったりする。
小錦(おそらく、体重は舞の海の3倍くらいある)との取組なんて、もう2人が仕切っているだけでおかしい。小錦もよくわかっているから、相撲協会に怒られない程度にファン・サービスをする。
舞の海が記録した決まり手は33あるのだそうで、見ていても、何がどうなって勝ったのかよくわからないものが多い(何度、巻き戻したことか)。
しかし、本人も語っているが、その本領は決め技ではなく、立ち会いにあるようだ。
小兵だけに、自分の得意な体勢(相手の左まわしを下手で深くつかむ姿勢)に持ち込まないと話にならない。その体勢に持ち込むための、猫だましであり、八艘飛びであったようだ。
変てこりんな決まり手は、もちろん、練習もしていたのだろうが、得意の体勢に持ち込めなかったときの窮余の一策、というケースが多いようだ。
取組の記録映像の合間、合間に、立川談志の語りと、舞の海との対談がはさまる。
元々は、立川談志が舞の海のファンで、関係の深い竹書房に、舞の海の取組を集めたビデオを出さないかと持ちかけたところから、このビデオができたらしい。
「談志百選」にこうある。
舞の海の勝った全勝負のビデオが出来ないものかしら……売れるヨォ……家元勿論買うさ、いえ売るよ、舞の海の勝ちビデオなら売ってやる。是非売りたいネ……。
その言葉通りになったわけだ。
玉ノ海梅吉さんは「相撲が芸能でなくなったら終わりだ」という言葉を吐いた。「同感だ」と思ったが、現在いまの相撲はスポーツになり、勝負が優先してきた……“してきた”のだが、家元わたしは舞の海に芸能を見てた……それは当然勝負という力の世界ではあるけれど……。逆にいうと、真剣勝負で勝っても舞の海の勝ちは「華麗な芸能」なのである。
判るう……?……ワカンナイ?……ま、いいや……。
全くもってその通りで、どの取組を見ても、後ろに映っているお客さん達は幸せそうに笑っている。舞の海が勝てば、ワッと湧く。時にはどよめく。負ければ、あ〜っ、とため息が響く(という言い方は変だけど、実際、“響く”のだ)
- 作者: 立川談志,山藤章二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/03/06
- メディア: 単行本
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話はズレるが、この「談志百選」もオススメだ。立川談志が、自分の選んだ百の芸人について書いている。山藤章二の似顔絵がまたいい。
「稀代の業師 舞の海」、永久保存版。何年経っても、この面白さは変わらないだろう。
ところで、パッケージに載っている舞の海の取組の、数々の写真はなぜか春画のように見える。「へええ、こんな体位があるのか」と勘違いしてしまう。
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「今日の嘘八百」
嘘六百五十二 ワイドショーを見ている人々がいじめを批判するのは、盗っ人猛々しいというものである。