生きものの記録

 昨日、目を覚ますと二日酔いであった。


 カフカの「変身」なら、


ある朝、グレーゴル・ザムザが何か気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で二日酔いに陥っているのを発見した。


 てなもんである。


 過去のページを見ると、1カ月ほど前にも二日酔いになっている。進歩がない。


 で、ここがあたしの気丈なところなんだが、二日酔いになりながらも、仕事をしようとした。スケジュールの関係で、ヤラネバの娘だったのだ。


 二日酔いが比較的軽症だったせいもある。もっとも、重症の二日酔いなら仕事なんぞできるわけがない。白目を剥いて、倒れているしかない。


 座ると途端に気分が悪くなる。
 ノートパソコンをベッドに持ち込んで、寝ながらやろうと試みた。


 しかし、これがなかなか難しい。


 仰向けになった腹の上にノートパソコンを置く、俗に言う(言わないか)ラッコ打ちを試してみた。


 しかし、普段、そんな体勢でパソコンを扱うことはないから、打った文字がめちゃくちゃだ。「いったもじあめyたくりゃか」などとわけのわからない字が並び、見ているだけで世界がぐるぐる回り出す。おまけに、もたげた首がひどく疲れる。


 うつぶせになり、CMで爽やかな娘さんが「あたし、ウキウキ・ライフ!」みたいな調子でノートパソコンを扱う格好も真似てみた。CMなら足をぷらぷらさせて、頬杖ついて、「フフ〜ン♪」てなところだが、もちろん、こちらにそんな余裕はない。


 全然ウキウキしないうえに、ちょっとキーボードを打つと、頭が自動的にあらあらあらと落ちてきて、そのままダウンする。うー、と、これ以上のリアリティはあり得ない声を残して、1時間ばかり寝てしまう。これでは意味がない。


 結局、蛮勇をふるって、座って仕事をすることにした。おれだってやるときゃやるぜ、ナメンナヨ! てなもんである。


 10分画面に向かっては耐えきれなくなり、10分倒れる、というペースで仕事した。こういうとき、広辞苑は枕としてとても便利である。


 倒れながら、「人はなぜ生きるのか」などと考える。二日酔いのたびに立ち現れるテーマである。もっとも、二日酔いのとき以外、立ち現れないテーマだから、いまだに答が出ない。


 夜10時頃には何とか形がついた。腹の立つことに、その頃にちょうど二日酔いが治った。いやいや、怒ってはいかんか。肝臓、サンクス、である。


 つまり、何が言いたかったかというと、おれは偉い、ということだ。そして、肝臓はもっと偉い。成せば成る。成さねばならぬ。何だかよくわからない。

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「今日の嘘八百」


嘘六百四十 カフカはギャグのつもりで「変身」を書いたので、その後の扱いに大変に心外らしい。