マラドーナ

 マラドーナが肥満解消のために胃の縮小手術を受けて、成功したそうだ。


 胃病のために胃を切る、というのはよくあるけれど、ダイエットのために胃を小さくする、というのは初めて聞いた。


 手術を受ける前、マラドーナは身長168cmで体重120kg台。身長は、同世代(40代)の日本人男性の平均身長と同じくらいか。日本人男性ふたり分がひとりに詰まっていると考えればいいのだろう。確かに太りすぎだ。


 マラドーナは、スーパーで、面白くて、そして哀しい人だと思う。


 本人も「私はサッカーボールのように太っている」と語っているそうだ。
 彼はこのコメントを、笑って言ったのだろうか、それとも悲しげに言ったのだろうか。
 笑ってそう言ったのなら道化のユーモアがあるし、悲しげな表情で言ったのならユーモラスなペーソスがある。私としては、悲しげな表情のほうを取りたい。


 前に栄養学の先生に聞いたことがあるのだが、運動能力の高い低いは内臓によるところが大きいのだそうだ。
 食べたものをきちんと消化できれば、栄養を体内に取り込める。それが筋肉を作り、運動時のエネルギーにもなる。
 その先生によれば、「強いのはやっぱり食うね」。


 マラドーナはあれだけの爆発的なプレーをしていた人だ。きっと強力な消化器官を持っているのだろう。現役時代は大量に食べても、それが圧倒的な運動量できちんと消費されていたのだと思う。


 それが、現役を引退しても、消化器官の強さはそのままで、また大食に慣れてもいた。食うことが好きでもあったのだろう。使う以上に食えば、太るのは当然である。


 ここからはあくまで私の想像だが、彼は楽しむことが好きで、そしていいものは外から与えられ、安易にコントロールできるものだと考えてきたのではないか。


 彼は、そもそもサッカーについて天賦の才を持っていた。「天賦」というくらいだから、天から与えられたのだ。
 そして、その天賦の才で、サッカーを楽しんできた。楽しみながらプレーして、さらにスーパーになった(今だとロナウジーニョに同じようなことを感じる)。
 たぶん、「巨人の星」のように悲壮感ただよわせながら練習したことはないんじゃないか。


 ヨーロッパで麻薬を知った。クスリで安易に世界の感じ方を変えられる、ということを学んだ。そして、その変化を楽しんだ。


 本人がどこまで了解していたのかはわからないけれども、ドーピングもやった。いつからドーピングを始めたのか、私は知らないが、1994年のワールドカップではドーピングで大会を追放されている。
 もし本人が自分でもドーピングと知りながらやったのなら、クスリで安易に肉体を変えられることも学んだことになる。


 なお、一時、マラドーナが現役復帰を目指していた頃、コーチにベン・ジョンソンを雇って、世界のサッカー・ファンに大いに受けたことがある。


 そして、今回の胃の縮小手術だ。
 医学的にどの程度、妥当な処置なのかはわからないが、これも(もしかしたら安易に)外から与えられるもので何とかしようという行動に思える。


 彼の不思議なところは、麻薬、ドーピング、「神の手ゴール」など、普通なら悪のイメージを抱かれそうなのに、そうはならないところだ。なぜか、愛すべき存在に思える。多分に愚かな少年の雰囲気を、太った今も持っている。


 現役を引退して10年にもならないのに、サッカー選手ではなく、自らサッカーボールになってしまったマラドーナ
 スーパーで、面白くて、そしてどこか哀しい。


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