テレビのドキュメンタリー番組や雑誌のインタビューなどでしばしば見かける質問に「あなたにとって◯◯とは何ですか?」というものがある。
これがおれには昔から解せない。質問するほうも質問するほうだが、答えるほうもよく答えられるものだと思う。
たとえば、おれが「あなたにとってお金とは何ですか?」と問われたら、え?、とおそらく一瞬凍るだろう。今まで一度も考えたことがないから。「あなたにとって仕事とは何ですか?」というのも困りそうだ。「生活の手段です」と答えれば、当たらずとも遠からずだろうが、さて、そう簡単に割り切れるものでもなさそうである。
かといって、国語辞典を引くように、
「あなたにとって結婚とは何ですか?」
「[名](スル)夫婦になること。「お見合いで結婚する」「結婚式」「結婚生活」→婚姻(こんいん)」
では、いささか紋切り型にすぎるし、
「あなたにとって恋愛とは何ですか?」
「恋したり愛したりすることです」
では、お互いに困ってしまうだろう。
質問する側としてはていよく番組なり、インタビューなりを追われる手段なのだろうが、さてもさても、そう簡単に問いたり、答えたりしていいもんだろうか。
たとえば、
「あなたにとってサイン・コサインとは何ですか?」
「あなたにとって源氏物語とは何ですか?」
「あなたにとって小林製薬とは何ですか?」
「あなたにとって太陽系とは何ですか?」
「あなたにとって王安石の新法とは何ですか?」
「あなたにとってお通夜とは何ですか?」
いずれも答に窮しそうである。
あなたにとって今このときって何ですか?