謎の東京言葉

 東京言葉といっても、下町のほうの「まっつぐ行って」とか、「てのごい(手ぬぐい)」とか、「八百屋おひち(お七)がしぃ(火)つけた」という言葉遣いのことではない。


 だいたい、東京の下町言葉なんて、日常生活の言葉としてはほとんど滅びてしまったのでははないか。


 そうではなくて、“何となく東京の言葉遣い”と思われている、不思議な言い回しがあるように思うのだ。


 昔、ひさうちみちおに、大阪の言葉を東京の言葉に直してみるという漫画があった。


「お前ら、なんぼのもんじゃい!」


 というミナミの帝王方面の威勢のいい言葉は、東京に来ると、


「君たち、いくらのものなんだい?」


 となるんだそうで、大笑いした覚えがある。


 しかし、わたしは東京近辺で暮らすようになって二十年以上になるが、今だかつて「〜なんだい?」なんていう言い回しを自分の耳で聞いたことがない。


 あえて東京の言葉(と言っていいのかもよくわからないのだが)にするなら、「〜なの?」だろう。


 似たような言葉で、「〜してるかい?」というのも、まず使われないと思う。普通は「〜してる?」、「〜してるの?」、「〜してんの?」といったところだろう。


 もっとも、毒蝮三太夫の「おぅ、ババア。生きてるかい?」とか、清志郎の「愛し合ってるか〜い?」なんていうのがあるから、全く存在しない表現ではない。日常生活ではまず使わないということだと思う。


 昔、やすしきよしの漫才で、横山やすしがよくわざと東京言葉を使っていた。「ボク、〜しちゃってるのさ!」とやすしが気取って言って、西川きよしがつっこむ、というのがひとつのパターンだった。


 残念ながら、これも東京の日常会話にはない。別に残念ではないか。


 こういう、ほとんど存在しないのに、存在していることになっている言葉というのは何なのだろう。


 ボクって、いつもこんなことばっかり書いちゃってるのさ。イカすわあ、なんて思われちゃってるのかな。ネ、ネ、どうなんだい?

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「今日の嘘八百」


嘘五百三十八 最後の段落書いてから、全身、痒くてたまらない。