桜と梅

 東京では花見の季節を終えて早ひと月以上になる。今となってみれば、季節も落ち着いて、あの狂乱のアラエッサッサー状態はなんだったのかと思う(おれもあの時期にはいささか心浮かれるのだが)。
 おれは桜も好きだが、年をとって、梅もいいなあ、と感じるようになった。梅は桜と違って枝ぶりが面白いし、あの静かな佇まいも、そしてもちろん、花の色も香りもいい。
 桜はしばしば日本の象徴として扱われる。梅はそうではない。桜と梅を取り替えるとどうなるだろうか。
 負けてたまるかニッポン男児方面の衛星放送に「チャンネル桜」がある。取り替えると、「チャンネル梅」である。実にのどかだ。
 軍歌も変わる。「♪お前とおっれぇとぉはぁ、同期の梅ぇ木ぃ」。あまり戦意高揚にはつながらなそうだ。同期のうめき、というのも苦しそうでよくない。
 警視庁が桜田門にあることから、警察の紋章を「桜の代紋」とも言う。「梅の代紋」。迫力というものが全然ない。
 遠山の金さんの彫り物は「梅吹雪」。フリカケみたいである。
 梅はのどかだ。桜よりスケールは小さいけれども、梅が日本の象徴になる時代が来たら、それは平和な時代じゃないかと思う。