強制終了

 小説でも、映画でも、お芝居でも、テレビドラマでもいいが、物語というのはパターンがあるらしい。


 例えば、昨日、抜き書きしたケータイ小説(この「ケータイ」という書き方、ヤだな)のあらすじを、文末だけちょっと変えて、話を無理矢理終わらせてみよう。



背が小さくて普通の少女、美嘉。
長身でイケメンのヒロはギャルたちに人気がある。
ひょんなことから2人は出会い、
意気投合して付き合うことになる。


しかし、ヒロの元彼女からのいやがらせに悩まされ、
ヒロとの子を妊娠していた美嘉は、流産してしまう。


そんな逆境を通して2人の絆は一層深まったかのように見えたのだが、
突然ヒロは別れを告げた。


(終わり)


亀子剛(かめこつよし)は、2人組アイドル・ペリエAの清原花音(きよはらかのん)の追っかけカメラ小僧。デビュー4年目、近頃人気下降気味の彼女を、いつものように最前列で熱写していると、貧血気味の花音が2階のステージから落ちてきた! 必死でキャッチしたその途端、大衝撃に見舞われ、気を失った! 病院で目覚め、鏡に映った自分の姿を見た時、剛は絶叫しそうになる。自分がB83.W57.H88の、清原花音になっていた。


(終わり)


キャバクラで働く20歳のマユは、客の優太とつき合いはじめる。ケンカや誤解からすれ違い、別れも経験するが、互いの存在の大きさに気づき、強い絆で結ばれていく。マユの妊娠を機に二人は結婚を決意した。


(終わり)

 何かこう、物足りない心持ちにならないだろうか。


 もし物足りなく思えたとしたら、自分でも意識せず、物語にパターンを期待している証拠である。
“ここで、ひと展開あるはずだ”という期待を裏切られるから、物足りなく感じるのだ。


 今朝の朝日新聞のテレビ欄にあったドラマ(ボクシング物らしい)のあらすじも、強制終了してみよう。



 畑中耕作はプロテストで素質を見せつけながら、それ以降は食欲に負けて減量失敗を繰り返し連戦連敗中。ある日、きついトレーニングに音を上げ、公園でダウンした耕作に救いの手を指し伸べた美しいシスターのアンジェラに心を奪われる。マリア様のささやきのような「頑張って」の言葉に励まされ、耕作はトレーニングに熱が入ったのだった。


(終わり)

 それは何より!


 ま、わたしはこういう、突然、放り出されるような「あれ?」という感覚も嫌いではないのだが。


 みなさんも、いろんな物語を強制終了して、遊んでみてください。
古事記」を、イザナギが黄泉の国に行ったっきり強制終了したら、その瞬間、日本が消滅したりして。

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嘘六百三十三 マグロの赤身を、ラードと一緒にラップにくるみ、冷蔵庫に一晩入れておくと、大トロの味になる。