痒みの知覚

 おれは体質的にアトピーで、子供の頃からカイカイカイカイと痒がって生きてきた。

 アトピーのひどいときはこっちが痒くなってボリボリ、それが治まるとあっちが痒くなってボリボリ、それが治まるとそっちが痒くなってボリボリ、とまあ、きりがない。

 面白いというか、不思議なのは、同時に全身が痒くなるということはあんまりない。一時に痒みを覚えるのは一箇所かせいぜい二箇所であって、そこの痒みが治まると別の箇所がまた一二箇所痒くなる。どうやら痒みが知覚される箇所というのは限られているらしい。

 例によっての適当な考えだが、神経はおそらく痒みの信号を全身から送ってくるのだろう。しかし、それが痒みと知覚されるのは、脳の処理か何かの関係で、限定されるのだと思う。それでもって、その限定された痒みをボリボリやったりなんだりで治めると堰き止められていた別の痒みが脳の表舞台に現れて「ああ、今度はこっちが痒い」となるのだと思う。

 アトピーだとこの連鎖のキリがなく、実に困ったものである。アトピーというのは一種の神経過敏の状態でもあって、「痒い」という字を見ているだけでどこかが痒くなってくる。

 掻いちゃいかん、というのはよく言われることだが、それはアトピーの痒みの強さ、どうにも辛抱たまらん感じの状態がわからないから言えることではないか。実にもう、どうにもならんものがあって、今日もあちこちおれはボリボリボリボリ。