腸内と土壌と草花

 のっけから汚い話で恐縮だが、おれは排便をした後に自分のビッグベン=ウンコを見る。どのくらい出たかと色を確認する。健康状態のチェックというより、単に興味があるからだ。

 おれの場合、肉の消化があまり得意ではないらしく、少し多めに肉を食べると、ビッグベンが黒褐色になる。炭水化物が中心だと黄褐色、食べ物のバランスによってその間のいろいろな色となる。

 ビッグベンの組成は水分を別とすると、食べ物の残りが3分の1、腸内細菌(死骸も含む)が3分の1、腸の粘膜や腸からの代謝物が3分の1だそうだ。おそらく色が食べ物によって変わるのは腸内細菌のせいなのだろう。肉を多く食べると肉を主食とする腸内細菌が増殖し、炭水化物を多く食べると炭水化物を種主食とする腸内細菌が増殖し、結果としてビッグベンの色が変わるのだと思う(そのほかに、胆汁の色も関係するらしい)。

 わしらの腸内というのは腸内細菌が入り乱れて勢力争いを繰り広げていて、仁義なき戦いか、龍が如くか、というドンパチ状態であるらしい。腸内フローラ(フローラは植物相という意味)というもう少し品のある言い方がされることもあるが、おそらく、お庭や草原のような爽やかな場所ではなく、密林か、雑草ぼうぼうの野っぱらのようにいろいろな腸内細菌が場所を奪い合って生息している状態なのだろう。人間、何十年とあれを食い、これを食いを繰り返し、腸内細菌の組織のミナサンがそれを奪い合っているとそういうことになる。

 食品メーカーがよく腸内の細菌を善玉菌、悪玉菌と呼んで、乳酸菌やビフィズス菌(善玉菌とされる)を取り入れましょうと広告を打つ。善玉菌が少なくなっているなら、外から補給すればいいのではないか、という発想なのだろうが、おれはちょっと疑問に思っている。胃に入った途端に胃酸で菌が部隊全滅状態になることも多いだろうし、生き延びて腸内にたどりついても、腸内で生き残れるのかは怪しい。密林の上空からひまわりの種をばら撒けば、ヒマワリの園になるか、想像してみればよい。

 おれは、菌を直接口から取り入れるよりも、菌はそもそも腸内にいるのだから、有用な菌のエサになる食物を取り入れたほうがよいと考えている。種を新しくまくより、土壌を改良してその菌の好む養分を増やし、もともとある種が育つようにしたほうが増えやすいだろうという考え方だ。

 食品メーカーが俗に言う善玉菌(そんな単純なものではない気がするのだが)の入った商品をすすめるのは、それを食べておけばよい、というお手軽な気分にのっかってだと思う。しかし、おそらく腸内環境というのは多くの菌、さまざまな栄養物、腸の部位や機能が複雑にからみあってできあがっているものであり、菌を取り入れればよいという単純なものではないように思う。すでにいる菌の肥やしになる食べ物のほうが重要なんではないか。