エルミタージュ幻想 奇跡のような90分ワンカット

 アマゾンのPrime Videoで映画「エルミタージュ幻想」を見た。2002年のロシア映画である。

 

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 実にとんでもない映画だ。ペテルブルグのエルミタージュ美術館を映画監督(カメラの視点)と19世紀(?)のフランスの外交官がさまよい歩き、ホールからホールへと移動するたびに現代の人々と18-19世紀の人々が現れる、という、文字で書いてもなんだかわからないだろうが、そういう映画である。

 驚いたことに、90分の本編がワンカットである。つまり、冒頭の暗い階段のシーンから最後の大舞踏会のシーンまでずーーーーーーっとカメラが回しっぱなしなのだ。しかも、固定カメラならまだしも、美術館の中を移動しながら(おそらく手持ち)の撮影である。

 スパイスガールズの「Wannnabe」のミュージックビデオを見たときも、一曲全部移動しながらのワンカットで「よく撮ったなー。よく誰もトチらなかったなー」と思ったのだが、「Wannabe」は4分、「エルミタージュ幻想」は90分である。

 

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 2000人ほどの出演者・スタッフが90分の間にひとりでもトチったら撮影は最初からやり直しであって、これが実にスリリングというか、ギャンブルというか。おれが現場にいたら、貴族の令嬢のドレスの裾を踏んづけたり、くしゃみしたり、階段ですっころんだりして、あっという間に撮影をメタメタにしたろう。

 出演者はカメラのほうに全く視線を向けず、あたかもカメラがそこにないような演技をしている。カメラにぶつからない。これは、特に最後の大舞踏会で踊る人々の間をカメラが縫うようにして移動するシーンでは驚異的だ。体操競技で言うなら、10.00満点の演技を5、6回連続するような奇跡的な撮影である。

 いやはや、とんでもないアイデアととんでもない実行力を持った人もいるもので、クリビツテンギョウ(びっくり仰天)の映画であった。