陸奥宗光の顔

 相変わらずいきなりの話題で恐縮だが、幕末・明治の人でおれがこいつは異相だと思うのは大村益次郎陸奥宗光である。

 大村益次郎は明治初期の軍制を司ったことで有名だが、こんな顔だったそうである。

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 初めて見た人はたいがい驚くだろう。おれは最初、こういう豆かと思った。長い頭部(顔は頭部の下半分しかない)と大きく秀でた額も強烈だが、太くて釣り上がった眉毛がまたこの顔を忘れ難いものにしている。

 もっとも、この肖像画大村益次郎の死後に、知っている人の話をもとに画家が書いたものだそうで、本当にこんな顔だったかどうかはよくわからない(西郷隆盛と同じ)。が、おそらくその「知っている人」にとっては円筒形の頭部と眉毛が印象的だったのだろう。

 もうひとりの異相は、日清戦争時の外相を務め、外務省には今でも銅像があるという陸奥宗光である。

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 大村益次郎に比べれば整った顔立ちで、むしろ美男の部類に入るかもしれない。しかし、この顔の長さはちょっと異常である。

 陸奥宗光が家族と一緒に写した写真がある。

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 真ん中が陸奥宗光、左が妻の亮子さん、右が長男の広吉さんである。広吉さんも面長だが、陸奥宗光ほどではない。むしろモテるバランスの顔立ちではないか。

 この写真をもとに、陸奥宗光の顔の縦横を測ってみた。陸奥宗光の身長は175cmくらいだったらしく写真をもとに顔の長さを計算してみた。

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 ヒゲのせいで顎の末端がわからないがこのあたりだろうと検討をつけてみた。頭部の長さは25.75cm。とっさにおれの頭部の長さを今、測ってみると24.5cmだった(身長は167cm)。おれの顔はそんなに大顔でも小顔でもないから、陸奥宗光の頭部の縦の長さは普通である。一方、頭部の横幅は12.98cm(まあ、基準点が曖昧だから、誤差が結構あるだろうが)。おおよそ、縦と横が2:1である。丸顔と言われる人で1.2:1、普通はせいぜい1.5:1くらいだろうから、これは長い。相当に長い。いや、頭部の長さが普通だから、顔の幅が極端に狭いのだろう。

 この頭部で、どんな脳の形をしていたのだろうか。こんなふうだろうか。

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https://www.scientificanimations.com/, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, ウィキメディア・コモンズ経由。縦サイズを2倍に伸張。

 陸奥宗光の顔をなるべく正常(?)なバランスにしてみた。

 まずは縦を80%にしてみる。

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 なかなかいいバランスである。とても整った顔立ちで、ハンサムと言ってよい。広吉さんもちょっと愛嬌が出てきた。

 もう少し行ってみよう。縦を3分の2にする。

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 陸奥宗光は小顔で(あらためて顔の幅が狭いのだとわかる)、渋沢栄一みたいなチンチクリンになったが、大丈夫である。しかし、広吉さんが苦しくなってきた。亮子さんも心なしか不機嫌そうな顔に見える。

 もっと行ってみよう。縦を半分にする。

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 何事もやりすぎはよくない。陸奥宗光もムッとしているが、亮子さんは怒り爆発寸前である。

 しかしまあ、日本外交史にその名を残す陸奥宗光も、百年あまり後に、馬鹿に顔をこんなふうにいじくられるとは思ってなかったろう。泉下の霊にお詫び申し上げる。