天皇陛下のお買い物

 生活の中でのデジタル化が進んで何が多くなったかというと、個人情報の入力である。ショッピングサイトもそうだし、SNSもそうだし、そのほかなんやかやとサービスを利用するたびにあれやこれやと書かされる。面倒くさいなー、またかよー、などと思いつつ、しょうがないので毎回同じことを入力する。便利の裏には不便があるものである。

 それでまあ、以前にも書いた覚えがあるが、天皇陛下はデジタルサービスを利用するとき、どうなさるのであろうか。個人情報をどう入力されるのか。

 たとえば、名前の欄。たいがいは「姓」「名」「姓(フリガナ)」「名(フリガナ)」などとある。ご案内の通り、天皇には姓がない。仕方がないので姓のほうを空欄にして、名のほうに「徳仁」「ナルヒト」などと書くと、当然ながら「※ 入力必須」などとサイト側からお叱りを受ける。

 住所はまあ、「東京都千代田区千代田1-1-1」でよいが、ついでに「皇居」と書くのも正確を期してよろしい。

 問題は職業欄である。やはり「職業:天皇」と書くのであろうか。それとも、「職業:公務員」であろうか。確かに、いろいろな公務に勤めていらっしゃるが、公務員はちょっと違う気がする。と言って、「職業:神官」というのも、まあ半分当たってはいるが、ぴったりではない。意外と「職業:複合サービス業」なのかもしれない。

 それでもって、何かサービスの利用に不具合があって、コールセンターに問い合わせをしたら、こんなふうになるんじゃないか。

「もしもし」

「はい、〇〇サービス、コールセンターです」

「うまくサイトが使えないので、おうかがいしたいのですが」

「はい、まずはお客様のお名前からお願いいたします」

「ナルヒトです」

「ナルヒト様。上のお名前はなんでしょうか」

「あの、ないのです」

「ない・・・それではご住所は」

「東京都千代田区千代田1-1-1 皇居です」

 このあたりでコールセンターのオペレーターも異常を感じるであろう。ひそかに上司を呼ぶボタンを押すかもしれない。

「ご職業は?」

天皇です」

「(上司に代わる)あのですねー、もしいたずら電話でしたら困るのですよ。ちなみに、記録のためにこの電話は録音させていただいておりますが」

「困りました。わたくし、天皇のナルヒトなのですけれども、いけませんでしょうか」

 などと、不便極まりない。

 まあ、実際には侍従なり、宮内庁の担当なりがご用を代行するのだろうけれども、この時代に自分では一切デジタルサービスに加入できないとは、とてもご不自由な御身の上だと思うのである。