痒みと思考

 おれはガキの自分からアトピー体質で、かれこれ半世紀にわたってカイカイカイカイ、と感じてきた。

 痒みというのは不思議なもので、ひとつの患部でも特に痒みを感じないこともあれば、突然猛烈な痒みが襲ってきて、どうにもならないことがある。また、ある場所をカイカイカイカイと掻いてひとまず治めたら、別の場所が急にカイカイカイカイと感じられることもよくある。

 つまり、ある瞬間に痒みを感じる場所はとても限られているのだ。これは痒みの起きる部分がその瞬間、瞬間で限られているということだろうか。それとも、痒みが起きている場所はあちことにあるのだが、痒みとして感じる場所は限られるということだろうか。後者なら、痒みが起きているのに、別の場所の痒みのせいで知覚されない痒みは(ややこしいな)、潜在意識にならって、潜在カイカイと呼んでもいいかもしれない。

 もし潜在カイカイ説が正しいなら、思考に似ている。人間、ふたつのことを意識のうえで同時に考えるのは難しい。きわめて短時間にふたつのことを交互に考えることはできるかもしれないが、同じ瞬間にふたつの別のことをかんがえるのは、ほとんど無理ではないか。少なくともおれにはできない。

 しかし、意識にのぼっていることがひとつであっても、その後ろでは別の何かについて考えている(潜在意識で考えている)ということはありそうだ。

 潜在意識と意識、潜在カイカイと知覚カイカイ、脳や神経系統の秘密がそのあたりにひとつあるような気がしないでもないかもしれないまったくテキトーな思考のカスなのであった。