卵の不思議

 おれは昔から進化ということに非常な不思議の念を抱いている。もっとも、それで進化論のほうを勉強するかというとそういうわけでもなく、だから学問方面が深まることはない。ただ不思議だ、不思議だと思っているだけである。

 キリスト教徒の中には進化ということを認めず、「あれは神が最初の七日間で創り上げたのだ」と唱える人もいる(キリスト教徒の全員ではない)。「では、化石なんかはどう考えるのだ。動物の形は進化しているではないか」と問うと、「いや、あれは神が最初の七日間で化石としてお創りになったのだ」とまあ、そう言われると否定のしようもない。実に素敵な答えを考えつくものである。

 おれが常々不思議だなー、なんでこんな巧妙なものができあがったのかなーと思うもののひとつに卵がある。鳥の卵である。

 あの硬い卵の殻でくるむという工夫というか、仕掛けはどういうふうに進化したのだろうか。おれの無学のせいもあるかもしれないが、やこやこ、半固形の殻というのはなくて、いきなり硬い卵の殻ができあがったように見える。

 魚類の卵はご案内の通り、ほぼモロに中身である(かたまってイクラやスジコのようになっていることはあるが)。両生類は、といってもおれはカエルくらいしか知らないが、寒天のようなやわらかい物質で多くの卵をくるんでいる。ところが、爬虫類になるといきなり硬い殻が登場する。両生類から爬虫類が進化する過程で何が起きたのだろうか。殻になる前のやわらかい物質の段階もあったのだろうか(あったとしても、硬い殻の卵の種族が登場したら、その種族に駆逐されてしまったのかもしれないが)。

 鶏の卵というのも不思議で、白色レグホンはほぼ毎日、卵を産むらしい。麦だのなんだのの飼料をついばんではそれを体の中でタンパク質の豊富な卵に変換する。人間にとって実によくできているというか、人間の品種改良にかける情熱というのはただならないものがある。

 白色レグホンの場合は人間の掛け合わせによって進化をスピードアップさせたわけだが、その大元の、自然界の進化は実にもって不思議だ。何しろ(神様が七日間で創ったのでなければ)、地球を放っておいたら、いろんな形態の生物がわんさと生まれて、そして今、おれの目の前に麦から変換された硬い殻の卵があるのだ。

 必要は進化の卵なのだろうか。