天国に一番近い曲

 おれが小学生の頃にディスコ・ブームというのがあった。アバ、ビージーズがミラーボールの中できらめいておって、ジョン・トラボルタがサタデイ・ナイトでフィーバーしておるらしいという噂が見渡す限り田んぼの中にある富山県富山市でランドセルをかついでおる小学生の耳にも届いていたのであった。

 おれの中ではディスコ・ブームというのははるか離れた大都会の皮相的な流行的な話であって、パロディの対象以外として特に残るものはなかったのだが、アバの「ダンシング・クイーン」のきらめき感だけは記憶に残っている。

 最近、たまたま聞き直して、これが少々の気恥ずかしさも覚えつつも、いいのである。

youtu.be やたらとみんながスマイル、スマイルであるところは置いておこう。おそらく、この時代のこの場所ではそういう需要があったのだ。

 しかし、この曲調と、ボーカルの片方、アグネタ・フォルツコグの明るく派手で少しトゲのある声、そして要所要所で乗っかってくるピアノの「♪タタン、タタン、タタン」というコードワークには隔絶した素晴らしさがある。

 西洋において天国はいろいろと絵画に描かれてきたし、音楽にもあるけれども、ポップスの世界でこういう曲・アレンジ・演奏が出てきたことは奇跡に近いのではないか。バッハもムムムと白い鬘をかぶりなおす出来であると思う。

 酔っ払うと、多幸感というのだろうか、おれはアバの「ダンシング・クイーン」のような高揚した心持ちになることがある。しらふでそれを表現しているのだから、アバは素晴らしい(まあ、しらふだったかどうかは知らないけど)。

 西洋のポップスにおいて「ダンシング・クイーン」はおそらく最も天国のイメージに近づいた曲だと思う。インドでも、中国でも、中央アフリカでも、アンデス山脈方面でも、「ダンシング・クイーン」は天国に近いイメージの曲なのだろうか。