人間相対性理論

 人の悪口を言うのは楽しい。古今亭志ん朝も「人の悪口を言いながら酒を飲むほど楽しいことはありませんナ」と言っている。

 しかしーーこれをお読みの方の周囲にもいると思うのだがーーやたらと悪口を言う人もいて、げんなりすることがある。手当たり次第というか、当たるを幸いに悪く言う。曰く、「稲本は偉そうなこと言っても、自分では行動しない」「何様のつもりか」「口だけだ」「口が臭い」「腹が出てきた」「自分の行動をコントロールできないのだ」「頭が悪い」「屁をこく」「それがまた臭い」,etc.。

 理由は人それぞれにあるのだろうが、ひとつには、人を引きずり下ろしたり、蹴落としたりすると、相対的に自分の位置が高くなった心持ちになれる、ということがあるのだと思う。悪口言われた人はもちろん悪口言われているなど、気づかない。相手の知らないところで悪口言って、己の立場を相対的に高める(心持ちになる)のだから、なかなかの卑怯者である。これをイナモトの特殊人間相対性理論と名付けよう。

f:id:yinamoto:20181118172113j:plain

 引きずろ下ろし・蹴落としの中には、有名な人、成功した人が失敗するとしめしめとばかりにバッシングするという行為もある。他人の不倫話や離婚話をしかめ面ながら実はヨロコんで語るのも(ネットや週刊誌はイナモトの特殊人間相対性理論の統計的な証明である)、そういう心理の表れなのだろう。

 さらに視点を引いて見てみると、人間集団の間にも同じようなことがある。一般に日本では欧米崇拝というのがまだまだあって、たとえば、広告や雑誌の表紙に英語をすらっと入れただけでカッコよく感じてしまう。「海外」というと、もっぱら欧米のこと(だけ)だったりする。負けてたまるかニッポン男児。そういう態度をとってしまう自分たちが悔しいのか、欧米のあれこれを悪く言う人もいて、「あいつらには侘び寂びや風流というものがわからない」的な乱暴な話が飛び出す。引きずろ下ろしの典型的な例である。ミネストローネスープと味噌汁のどっちが美味いか議論したってしょうがないと思うのだが。

 一方で、特に中国・韓国に対する悪口雑言が聞くに堪えぬこともある。ヘイトスピーチというのは、多分に相手の集団を蹴落とすことで己達を相対的に高く感じるための手段ではないか。いわゆるネトウヨと言われる人たちの行為には、ある人間集団をひとくくりにして、引きずり下ろし/蹴落とし、己達を相対的に高い位置に置いたような心持ちになりたい、というものが多いように思う。

 これをイナモトの一般人間相対性理論と名付けたい。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/14/Albert_Einstein_1947.jpg/393px-Albert_Einstein_1947.jpg?uselang=ja

 アインシュタイン先生、すみません。