相変わらずの思いつきだが、ご容赦願いたい。
歌舞伎役者にはそれぞれ屋号があって、芝居のいい場面になると観客席から声がかかる。尾上菊五郎なら「音羽屋!」、市川團十郎や海老蔵なら「成田屋!」、片岡仁左衛門なら「松嶋屋!」、松本幸四郎なら「高麗屋!」、中村吉右衛門なら「播磨屋!」である。いわゆる大向こうというやつで、いいところでいい声がかかると、キマッた! という空気になる。歌舞伎は大向こうも織り込んでできあがっているのだろう。
ふと思ったのだが、役者にこんなふうに声をかけるとどうなるだろう。
「恥ずかしがり屋!」
恥ずかしがるのだろうか。
「頑張り屋!」
頑張り出すのだろうか。
「照れ屋!」
照れるのだろうか。
「怖がり屋!」
「さみしがり屋!」
「締まり屋!」
「皮肉屋!」
自分で書いていて、めちゃくちゃである。
役者の住んでいる地名を呼ぶというのもある。先代の中村芝翫なら「神谷町!」(当代もだろうか)、尾上松緑なら「紀尾井町!」だ。あれは町名だからいいのであって、たとえば、
「大田区!」
では、大雑把にすぎるし、たとえ実際に住んでいても、
「たまプラーザ!」
「東浦和!」
などというのはどうもいけない気がする(たまプラーザや東浦和が悪いわけではありません)。
将来の歌舞伎界も心配である。團十郎の家系がこのまま続くと(それ自体は結構なことだが)、やがては襲名披露で、
「ヨッ、五十三代目ッ!」
などという掛け声がかかるのだろうか。
あるいは、グローバル化がさらに進展すると、こんな大向こうの時代が来るかもしれない。
「I've been waiting for you!」(待ってました)
「大量的!」(たっぷりと)
「Mr. President!」(大統領)