効果のほど不明

 土日は都内を自転車で徘徊していることが多い。そうして、時折、行政方面が掲示していると思われる謎のフレーズを目にする。
非核平和都市宣言」とか「交通安全都市宣言」とか、ああいう堂々とした宣言ポールも不思議だが(宣言してどうなるというのだろう)、もっと地味なところにも得難い不思議感覚物体を発見できる。
 新橋のとある交番には「犯罪被害相談所」という表札状のものがかかっている。いや、もちろん、そうなのだろうけど、交番が犯罪被害相談所でないことってあるのだろうか。ある交番には「犯罪被害相談所」と書かれているから相談に来て、別の交番には書かれていないから相談に来ない、なんて考えにくい。謎である。
 浜松町には「広げよう 納税の輪」と書かれた小さな表示板がある。効果のほど、全く不明だ。これを見て、「そうだ、納税の輪を広げねば」と思う人が(サボっている税務署の役人なら別だが)いるだろうか。
「奥様、もう納税なさいました?」
「ええ、いたしました。あなたは?」
「わたくしも先週納税いたしました」
「納税は素晴らしいですわねえ」
「まったくですわねえ。納税の輪をもっと広げたいものですわねえ」
などという会話、発想が市井にありえるだろうか。どうもこの手のフレーズを考えて公共の場に掲げる行政の人のセンス、というより能力が不可解である。
 第二京浜のとある歩道橋には「スリルよりマナーで示せ 君の腕」という交通標語が掲げられている。腕自慢でスリルを求めて危ない運転をするような若者(「君」という言葉にかすかに見下ろす態度が見受けられる)がこの標語を見て、「そうだよなあ。スリルよりマナーで示したいものだよなあ」などと態度を改めるだろうか。
「こういう掲示は税金の無駄遣いである」などと野暮な紋切り型のまとめ方をするつもりはない。むしろこの手の効果のほど不明のフレーズが厳しく追及されない豊かな国に住んでいることの平穏さを喜びたい、ような気がする、かもしれない、かな?