次郎長三国志を見る

 マキノ雅弘監督の「次郎長三国志」全9本を見た。1952年から1954年にかけて作られた作品で、名作の名は高かったのだが、ずっとビデオ化もDVD化もされていなかった(非売品では存在したらしいが)。涙あり笑いありのまさに痛快娯楽時代劇で、非常な活気があり、日本映画の黄金期がこのあたりから始まったと言われるのもうなずける。
 話は講談や浪花節でよく知られた次郎長物である。村上元三の同名小説を映画化している。清水港の次郎長こと山本長五郎のもとに徐々にばくち打ちが集まってきて一家を構え、祭りだ喧嘩だ兇状旅だワッショイワッショイと大騒ぎである。主要人物達がさまざまな境涯から自由を得て吹きだまりのように集まってくるという意味では「次郎長三国志」と呼ぶより「次郎長水滸伝」と呼んだほうがよいかもしれない。
 次郎長の子分の代表格は森の石松で、頼れる兄分ということでは大政が中心なのだろうが、おれの見るところ、次郎長一家の気分を代表するのは田崎潤(「連想ゲーム」で重々しい顔して、時々破顔一笑していた姿を覚えている人も多いと思う)演ずる桶屋の鬼吉である。とにかく陽気で、ぱっと花が咲くように明るい。元々、次郎長三国志の映画化は田崎潤が桶屋の鬼吉をやりたいと東宝に企画を持ち込んだことから始まったそうだが、確かにはまり役であり、田崎潤のはじけっぷりは素晴らしい。これだけでも次郎長三国志を見る価値がある。
 もちろん、森繁久弥の石松もいい。この人がいなければ次郎長三国志の面白さも半減だろう。ただ、この人の場合はどこかに演技の計算が見えるところがあり(素がインテリなのだ)、その点では天からはまっている田崎潤にかなわない。いろいろと騒動を起こし、ストーリーを回していくという点では石松と追分三五郎(若き日の小泉博である)、投げ節のお仲が重要だが、しかし、次郎長一家の土台を為しているのはあくまで鬼吉、関東綱五郎、法印大五郎の三バカ・トリオである。ワッショイワッショイ。「バカは迷惑だが、人を楽しませる」という命題をこの三人は体現している。そういう意味では、鬼吉、綱五郎、法印大五郎は次郎長一家の胴体であり、石松と三五郎は手足と言える。そして頭が大政で、ソウルが次郎長である。
 基本的に明るく陽気で楽しい映画なのだが、時々、ふと暗い影が差すことがある。特に8本目の「海道一の暴れん坊」の石松は哀切である。
 次郎長一家が時々口ずさむ歌がある。

 〽おいら死んだとてナー 誰が泣いてくりょうかナー

 〽おいら死んだらヨー 道ばたに埋めてくれ
  うれしやな 春にゃレンゲの花が咲く

 バカで自由な生き方をするばくち打ちの気概と哀しみがよく表れている歌だと思う。素晴らしい。

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