年齢と小津安二郎

 小津安二郎の「小早川家の秋」を見た。

 小津安二郎の映画はどれも、世の映画全体の平均からすれば、ひどくショッキングな事件が起きるわけではない。人が殺されることもないし、地震で都市が崩壊することも、竜巻が荒れ狂うことも、超能力少年が未来を予知することも、宇宙人が宇宙船から下りてくることも、アナコンダが人間を襲うことも、ラドンがマッハ1.5で飛び回ることもない。起きるのは、お見合いや結婚話、ちょっとした行き違いなど、家庭的な事件である。最後に年老いた父や母が亡くなることもある。世の映画の平均からすれば大した事件ではないかもしれないが、しかし各家庭の視点から見たら、どれもそれなりに大きな事件ではある。

 二十代の頃に小津安二郎の映画を見たときは退屈に思えた。その頃にある人から「ある程度の年にならないと面白くないかもねえ」と言われたことがある。何だよ気取りやがって、と思ったものだが、確かに、少なくともおれにとってはその通りで、ある程度の年になった今は、見ながら充実した時間を送ることができる。小津安二郎の映画を充実して感じられるようになるには、ある程度結婚式やお通夜などの数をこなす必要があるのかもしれない。あるいは、そういうこなした儀礼の数よりも、年をとるとたまってくる澱の量みたいなものが効くのか。

小早川家の秋」は「東京物語」や「麦秋」などに比べれば、変化に富んでいて、演出にも観客サービスが多いかもしれない。中村鴈治郎のいちいちの所作が楽しい。名演だと思う。

小早川家の秋 [DVD]

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