裏返しに見てみる

 わたしは物事をひっくり返して見てみることが好きで、物事の違う面が見えてくることがある。

 よく知られたジョークに、最高の暮らしとは「日本人の妻を持ち、アメリカ人の家に住み、イギリス人の給料をもらい、中国人のコックを雇うこと」というのがある。でもって、最悪の暮らしとは「アメリカ人の妻を持ち、日本人の家に住み、中国人の給料をもらい、イギリス人のコックを雇うこと」というのだ。

 日本人の妻を持つことが妥当であるかどうかについては既婚男性諸君の意見を待ちたいところだが、まあ、なかなかよくできたジョークではある。人口に膾炙しているということは、事実であるかどうかはともかく、「ハハ、確かに」という程度にはそういう通念があるということだろう。

 しかし、である。(あくまで通念どおりだった場合だが)「アメリカ人の妻を持ち、日本人の家に住み、中国人の給料をもらい、イギリス人のコックを雇」っている人というのはなかなか大した人物ではなかろうか。中国人の給料で、たとえイギリス人とはいえ(イギリスのみなさん、すみません)コックを雇えるというだけでも大した手腕だ。しかも日本人の家に住みながら、アメリカ人の妻を引き止めておける(アメリカ人の妻のみなさん、すみません)。人間的魅力か男性的魅力か知らないが、これはちょっと並大抵の人にはできないだろう。しかもこの人、そういう暮らしを維持し、耐えていくだけのタフさを備えている。

 だから、もしかすると最高の暮らしは「日本人の妻を持ち、アメリカ人の家に住み、イギリス人の給料をもらい、中国人のコックを雇うこと」かもしらんが、最高の人物は「アメリカ人の妻を持ち、日本人の家に住み、中国人の給料をもらい、イギリス人のコックを雇える人」かもしれない。

 あれ。しかし、日本人の家に住み、中国人の給料で生活し、イギリス人のコックの飯に耐えているアメリカ人の妻のほうが偉いのかな。離婚しても、中国人の給料の夫ではあまり慰謝料もらえそうにないし。

 ――このように、物事をひっくり返して見てみると、しばしば物事の違う面が見えてくるのだが、ひっくり返し続けているうちに何だかわけがわからなくなってしまうのである。