酔っぱらいのリアリティ

 何事も素早い現代ではもはやタイムリーな話題ではないが、少し前に中川財務・金融大臣の朦朧会見というのがあった。

 酒を飲んでいたのか、薬の影響なのか、真相についてはもちろんわたしの知るところではない。世界第二位の経済大国の重要閣僚がG7の直後にあのような失態を見せたことがどのような影響を世界経済に与えるのか・あるいは別に大して関係ないのか、この不況下に経済担当大臣の変わることがどのような影響を日本経済に与えるのか・あるいは別に大して関係ないのか、これまたもちろんわたしに判断つくわけがない。そんなことがわかるくらいなら、鼻クソほじりながらここでこんな文章を書いてはいない。

 あの記者会見のニュース映像を見てわたしが感じたのは、“コントの酔っぱらいの演技って、案外リアルなんだなー”ということであった。

 わたしも年に何回かロレツが回らなくなるくらい酔うことがある。飲み過ぎた人を見かけることもある。しかし、あの記者会見ほど激しく酔った(か、薬の影響だったか知らんが)人を見た記憶は、ほとんどない。

 コントの中の酔っぱらい――例えば、ドリフのそれを見るとき、今まで、面白く見えるようデフォルメしてるんだろうと思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。むしろ、朦朧となった人の行動を、コントの演技はリアルになぞっている。中川氏の記者会見で特にわたしに突き刺さったのは、時折吐く“はー、フ〜〜〜”という深い苦しそうな息と、質問を耳にしたときの“……どこだ?!”という突然の叫び声であった(いっそ、「ヘッ、プシ」とどこかでクシャミもしてくれれば満点だったのだが、まあ、そこまではさすがに望みすぎだろう)。

 えーと、断っておくと、わたしは風刺や嫌味を書きたいのではない。ましてや政治家の心構えを云々したいわけではない。単純にあの会見は面白かった、コントの酔っぱらいの演技が実はリアルだとわかってちょっと心動かされた、と言いたいだけである。

 不真面目かな。しかし、あの会見のニュース映像を、大半の人は一種の面白ニュースとして楽しんだと思うのだけれども――などと書くのは、例の、ちゃんとした人達を引きずり下ろして自分と同じレベルにまで落としてみせようという良くないやり口かしらん。