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 昨年(2007年)の殺人事件(未遂を含む)の件数は戦後最低だったんだそうで、へええ、と意外に思った。


 世の中、どんどん「コワい事件」が増えているようなことが言われるし、まあ、そんな印象もないではない。
 もっとも、「この頃、コワい事件が多いねー」というのは、わたしがガキの時分から言われてきたことではある。


 ちょっと興味を持って、警察庁のウェブサイトから「平成19年の犯罪情勢」なる資料を見てみた。


→ 警察庁 - 統計


 興味深いデータがあった。


 戦後の「刑法犯の認知・検挙状況の推移」というグラフ。



 画像がボケていて申し訳ない。
 太い線が認知件数、すなわち、警察が事件であると判断した件数である。薄いグレーの線が検挙件数、つまり、被疑者を検挙できた事件の件数。一番下の波線が検挙人員、すなわち、被疑者を検挙できた人数ですね。


 ただし、道路上の交通事故の業務上過失致死傷と、危険運転致死傷は除いているという。交通事情が昔と今とでは全然違うからだろう。


 一見して、事件の件数が、1970年代後半あたりからじわじわ増え始め、1997年(平成9年)頃から2002年(平成14年)頃までぐわっと上昇し、ここ何年かで下がっていることがわかる。


 日本の景気の傾向とおおよそ反比例しているようにも見える。


 検挙件数は、平均すると80万件くらいだろうか。100万件をピークとして、ここ7,8年は60万件あたり。戦後最低レベルである。


 認知件数(つまり、事件の数)が増え、検挙件数(つまり、捕まえることのできた事件の数)が減れば、検挙率が下がった、ということだ。
 簡単に考えると、「近頃の警察はだらしない」という結論になってしまいそうである。


 しかし、検挙人員、つまり、とっ捕まった人間の数を見ると、おおよそ40万人くらいで推移。10年ほど前は30万人くらいに低迷していたが、ここのところ、また40万人に戻ってきている。


 事件の件数は大きくアップダウンがあるのに、捕まる人数はあまり変わらない。これはどういうことだろう。


 警察がだらしなくなった云々ではなく、事件の多い少ないにかかわらず、警察が捕まえられる人数はいつの時代もほぼ決まっている、ということではないか。


 考えてみれば、警察の人員が大きく変動するということはなく(都道府県警察の警察官と職員は1981年に24万2,747人、2005年に27万7,611人だそうだ*1)、組織も、人事制度も、ここ何十年間、根本的な改革はないと思う。
 警察がよくなった、あるいはダメになった、ということはなく(そう言い捨てるのは簡単だし、気楽な立場ならではの快感はあるが)、検挙できる人数という意味での能力は、戦後を通して、さほど変わらないんではないか。


 田んぼの数が増えても、お百姓さんが一日に収穫できる量はさして変わらない、ということのように思う。違うかしらん。