土曜に松元ヒロのソロ・ライブを見てきた。
この人、どう紹介すればいいのか。ボードビリアンという言葉が一番合う気がするが、あまり一般的な言葉ではないだろう。
ピン芸人というのは大ざっぱに過ぎるし、お笑いと呼ぶのも気が引ける。テレビに出ているような人達とは質が違うからだ。
やたらと喋るパントマイマーというか、パントマイムもできるやたらと喋る人、というか……。
短いひとり芝居もやり、その点ではイッセー尾形に近いところもある。あそこまで徹底した、キビしい雰囲気のものではないが。
とりあえず、ファンサイトをご案内。
探してみたら、YouTubeにも映像があった。32分あたりでヒロさんが登場する。最初はパントマイム。談志師匠、野末陳平との座談の後、漫談というか、トーク。
これ、MXテレビで放送したものだと思うけど、よくまあ、放送したものだと思う。というか、MXテレビだからこそ、できたのか。
話は戻るが、ヒロさんのソロ・ライブ。2時間ぶっ通し。ひとネタ終わったら、ヒロさんが椅子に座って、水分補給するだけである。
内容はトークあり(本人曰く、「小粋なトーク」)、パントマイムあり、ひとりコントあり。
わたしはツボを押されまくって、アホみたいに笑っていた。
ライブに比べると、上のムービー、パワーが落ちる。ライブはこんなものではなかった。
カメラが相手だと、調子がつかめないのだろうか。
ネタは政治ネタが多い。
以前、わたしはヒロさんについて、「松元ヒロさんは世の中をよくしようなんて考えていない。考えていたとしても、とっくに諦めている」と書いたことがある(id:yinamoto:20071023)。
思い違いも甚だしい。
ちょっと見ただけで、自分の考えを、その人の考えであるかのようにすり替えて書いてしまうのはわたしの悪い、恥ずかしい癖である。
ヒロさんは、本気で政治に怒っている。それがネタに結びつく。
しかし、一方で、政治と笑い、あるは政治風刺ということについても、考えてしまう。
例えば、死刑制度についてのコントがあった。
死刑を執行することになった刑務官と死神の対話。刑務官は自分の職務を正当化するために死刑制度を正当化する理由を並べるが、死神は、死刑というのは結局、国民全員による人殺しだよ、と言う。
新聞記者なんかは、こういうネタを風刺だ、風刺だ、と喜ぶのかもしれないが、わたしはあまり面白いと感じなかった。
わたしの場合、政治風刺は、批判と笑いが5:5を越えると、シラケる。いや、4:6くらいでも何だかつまらなく感じる。
何かこう、笑いを道具に使って、政治をやっつけようとしているふうに感じられ、「笑いに失礼だろ」と感じてしまう。
一方で、障害者自立支援法についての話もあった。障害者が施設の利用料を一部自己負担することを決めた法律である。
ヒロさんが、知的障害者とその父母の会に招かれたときの話で、例えば、知的障害者が公的な施設で一個4円の工賃のものを100個作る。400円もらえるが、施設の利用料を600円払わないといけない、という。
つまり、その人は、差し引き200円を払って、仕事をさせてもらっていることになる。
障害者自立支援法は、建前のうえでは、これから障害者もなるべく自立できるようにしていきましょう、社会の中で家族と一緒に暮らしていきましょう、という考え方で作られた法律だという。
ヒロさんは、ある親にこう言われた。
「この子は私の子どもだから、私が面倒見ます。でも、いずれは私のほうが先に死ぬ。その先、この子がどうなるのかと思ったら、死んでも死にきれない」
ヒロさんは、冗談を交えながら割に淡々と語った。この話はズンと来た。
もしはっきりと主張したいことがあるのなら、それはわざわざ何かに仕立てなくても、ダイレクトに話せばそれでいいではないか、と思う。
偉そうで申し訳ない。しかし、これ、結構、重要なポイントだと思う。
根っこのところに怒りなり、強い疑問なりがあれば、その怒りなり疑問なりをストレートにわからせるネタにしなくても、ぽっとどこかに出てくるだろう。
あるいは、ちらっと見せるだけのほうがかえって効果が出る、ということもある。パンチラの原理だ。
政治風刺の笑いは、主張なり批判なりがストレートに表に出ると、握り飯にかぶりついたら小石が混じっていたような心持ちになる。
あくまでわたしの好みの問題なのかもしれないが。いや、違うと思うんだがな。
今日の朝日新聞の「かたえくぼ」という欄。
『真央優勝』
こけても大丈夫か
――首相
(郡山・忘衛相)
つまらねえ。批判したい気持ちに、センスが追いつかないのだろう。
ともあれ、松元ヒロさんは、毒のキツい笑いが好きな人にはお勧めである。
毒は強いけれども、本人がカラッと明るく、見事な道化を演じるので、見ていて不快にならない。
近くに来ると聞いたら、行くべし、行くべし。爆笑必至だ。
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「今日の嘘八百」
嘘六百九十四 昼側の人が「せーの」で地面を押し、夜側の人が「せーの」で地面を引っ張れば、地球を太陽から少し引き離せる。