〜屋

 わたしの使っている日本語変換ソフトは、そこそこ性能がよい。


 ただ、差別用語や注意を要する表現とされる言葉を変換してくれないのが、不満だ。
 例えば、(ピー)を漢字にしてくれない。(ピー)は(ピー)なんだから、(ピー)でいいではないか。この、(ピー)!


 なお、今、(ピー)の部分に何を打ったかというと、「(ピー)」である。


 この間知ったのだが、ちんどん屋差別用語あるいは注意を要する表現とする向きがあるんだそうで、例えば、この変換ソフトで「tinndonnya」と打つと、「朕問屋」と変換する。皇帝の人々を卸売りしてどうしようというのだろう。


 ソフトの会社としては、「ちんどん屋」、そういう言葉は少なくともうちの変換ソフトでは認めない、ということなのだろう。そのココロは、万が一、インネンをつけられてはかなわん、さわらぬ神に祟りなし、だと思う。


 くだらない。誰が文句をつけるだろう。
 ちんどん屋が鳴り物ならしてピ〜ヒャララ、会社にやってきて、「やいやい、よくもおれ達のことをちんどん屋と呼びやがったな! 思い知れ!」。
 街宣車よろしく会社のまわりを日がな一日、チキチンチンチン、ドコドンドンドン――なんてことあるわけないだろう(あったら、楽しいが)。


  では、朕問屋、ああ、わずらわしい、ちんどん屋を何と呼び換えるかというと、何と、ちんどんマンだそうだ。これにはわたしも驚いた。
 女のちんどん屋を呼ぶときはどうするのだろう。ちんどんウーマンだろうか。あるいは、ちんどんレディ、略してCLだろうか。


 そもそも、放送方面では、「〜屋」というのを注意を要する表現としているらしい。法的なものではなく、あくまで放送局の自主規制である。


 床屋は理髪店、八百屋は青果商、あるいは青果物商。
 その伝でいうと、八百屋お七は青果商お七となる。あのねえ、これからカボチャ売ろうってんじゃないんだから。


 恥ずかしがり屋は恥ずかしがり店、照れ屋は照れ店(テレテン、テン、テン♪)、頑張り屋さんは頑張り商さん、だろうか。皮肉屋の皮肉商なんて言い換えは、しかし、それ自体皮肉な感じがして、意外にいい。


 まあ、実際には、「〜屋」の「〜店」、「〜商」への言い換えは、ニュースなどの堅い放送では、ということのようだ。
 あるいは、「床屋さん」というふうに、さん付けにするのが好ましい、らしい、放送業界では。


 八百屋さんお七。何だか、ママゴトか、トウの立ったオバサンみたいだ。


「〜屋」ではないが、清水次郎長に出てくる敵役「ども安」なんて、放送ではどうするのだろう。


「吃音(きつおん)安」なんてのになったら、凄いね。渡世で余計な苦労をするに違いない。

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「今日の嘘八百」


嘘五百七十一 嘘の数、一個ゴマカしました。