さざ波の笑い

 たまに落語の会に行くのだが、面白いもので、会場によって、あるいは開演時間によって、客の反応というのはだいぶ違う。


 例えば、平日の昼間、どこかの区民会館でやるような落語の会だと、何しろ、平日の昼間であるからして、オバチャン連や老夫婦なんかが多い。


 笑点を見ているようなタイプの人達だから、全体にゆるい。ぬるい、と言ってもいいかもしれない。


 笑い声がのんびりしているのが特徴で、しかも長く続く。「アハハハハハ(ハハハハハハハハハハ……)」と、残響音のように、ホールに笑いがゆっくり広がる。


 落語家のほうも心得たもので、あまりブラックな笑いや、ハイブロウなくすぐりは入れない。


「『こないだ、テレビつけたら、倖田來未さんが歌ってましてね』、『はあ、あの中国の偉い人が歌を出したんですか』、『……いや、それは江沢民。あたしが言ってるのは倖田來未』」


 とまあ、そんなネタで、さっきの「アハハハハハ(ハハハハハハハハハハ……)」がさざ波のごとく来る。落語を聞いているのに、海辺で貝やなんかを拾っている気分になる。


 老夫婦に多いのが、“ネタを繰り返す”というやつだ。


江沢民だってさ」
「ねえ」
倖田來未を」
「ねえ。あはははは」


 テレビの前のお茶の間が、そのまま区民会館に運ばれてくるのである。まあ、平和である。


 都心のホールの夜の会だとまた様子が違って、客にサラリーマンやOLが加わる。


 何しろ、職場で上司のオヤジギャグにうんざりしている人達だから、ダジャレはあまり受けないようである。
 一応、「ははは」と笑いは出るのだが、「気の毒だから」という笑いが混じっている。


 こっちの会のほうが一般に噺のテンポがよい。スルドい笑いもあるので、わたしは好きだ。