坂の途中で

 NHKが、司馬遼太郎の「坂の上の雲」の大河ドラマ化を進めているそうだ。2008年をメドにしているという。


 もっと早くに実現するはずだったが、予定していた脚本家が亡くなったりして、延び延びになったらしい。


 この面倒くさい時期に、朝鮮や中国を舞台に日本が戦争するドラマを作るとは、NHKもガッツがある。


 わたしが「坂の上の雲」を読んだのはもう十年以上前なので、細かいところは覚えていない。
 ただ、当初は正岡子規、秋山兄弟を主人公にするはずが、巻が進むにつれ、正岡子規を書く筆からどんどん熱が薄れていったのを覚えている。
 入れ替わるように、軍人がどんどんフィーチャーされていった。


「ああ、司馬遼太郎という人は、結局、英雄譚や戦(いくさ)の話が好きなんだな」と思った。


 娯楽小説ならそれで構わない。
 しかし、ノンフィクションに似せた書き方をして、しかも今のように司馬遼太郎が「歴史家」として変に祭り上げられてしまうと、まるで正史のように捉えてしまう人も多いだろう。


 織田信長の時代のことならそれでも大して実害はないだろうが、日露戦争は現代に近すぎる。
坂の上の雲」はいろいろ問題の多い小説だと思う。現代の広瀬中佐にならなければいいのだが。


 NHKは、ドラマ化するなら、戦争シーンに思いっ切り、力を入れてほしい。


 砲弾が飛んできて、「うわー」と言いながら兵隊が飛ぶ、なんていう生ぬるい演出はいけない。


 もう、血だるまになって、手やら足やらちぎれ飛ばし、腹から腸がはみ出、寒さや赤痢で兵隊が下痢下痢になり、凍傷の指は落ち、食卓でテレビを見ている視聴者がゲロゲロになって、次の日、会社や学校を休むくらい、徹底的にやってほしい。もう、スピルバーグの戦争映画並みに。


 幸いなことに、わたしは戦争に直接巻き込まれたことがない。ただ、戦争というのは、英雄は勲章をもらえたり、後で小説の登場人物にしてもらえたりするが、普通の兵卒は随分痛く、苦しく、荒っぽくなり、体のあちこちはしばしばなくなり、ひどく飢えるものだと聞いている。


 近現代の戦争をドラマ化するなら、そこらへん、きちんと根性入れてやってもらいたい。そうでないなら、笑っちゃうくらいミエミエのフィクションにしてほしい。


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「今日の嘘八百」


嘘百六十三 あれはカツラで、鏡獅子のやつを切って作るんだそうだ。