あなたも東京弁を喋れる

 方言というのは面白いもので、これだけテレビが普及して、東京、大阪の番組が全国で放送されても、訛はなくならない。
 訛は案外、メディアからの影響を受けず、もっぱら会話の中で培われるのだろうか。


 地方の方言は生きているが、意外と滅びかかっているのが、古い東京の言葉、訛だ。


 一応、ここでは「東京弁」ということにしておくが、主に下町の言葉遣い、訛を指す。
 山の手のほうの言葉は、わたしにはよくわからない。武家が多かったらしいから、「ござる」なんて言ってたのかね。


 古い東京弁というと、「し」が「ひ」、「ひ」が「し」になる、というのが有名だ。「まっつぐ行っとくれ」なんてのもある。
 手ぬぐいは「手のごい」と言ったらしい。関西出身の紳介がプラスチックをつい「プラッチック」と言ってしまうようなものかもしれない。


 ま、しかし、もっと安易に古い東京弁を喋る法がある。
 母音(小中学生男子が大騒ぎになる言葉だ)が「ai」となる場合、「ee」とする。これだけである。


 たとえば、「大根」は「でえこん」、「大変だ」は「てえへんだ」だ。
「毎日、毎日、一体、何やっているんだい」なら、「めえにち、めえにち、いってえ、何やってるんでえ」と、こうなる。

てえどのもんでえでえ

 先ほど、古い東京の言葉、訛は滅びかかっていると書いたけれども、例外が「ない」を「ねえ」とする言い方だ。


「やってられない」を「やってらんねえ」とする類の言い回しは、なぜか全国的に広まった。
 逆に考えると、全国的に広まったから、東京弁には珍しく生き残ったのかもしれない。


 それはともかく、この「ai」→「ee」という変換、簡単に東京弁らしきものを作り出せて、楽しい。


「うるさいでしょうが、ひとつ、勘弁してください」なら、「うるせえでしょうが、ひとつ、勘弁してくだせえ」。
「なあ、兄弟、帰りに一杯、どうだい?」なら、「なあ、きょうでえ、帰りにいっぺえ、どうでえ?」。


 書いてるだけでイナセな気分になってくる。物事は何事もこう、鉄火に行かなきゃなんねえ。


 戦前、東京の下町の人は「大日本帝国、万歳!」をどう発音したのだろうか。


「でえにほんてえこく、ばんぜえ!」なんて言ってたのか。
 軍人さんにメチャクチャ叱られそうである。


 ま、古くからの江戸〜東京育ちの人は、突然やってきて威張り始めた薩長土肥を心の中じゃ嫌っていたろうから、案外、ヤケクソ気味に「でえにほんてえこく、ばんぜえ!」だったのかもしれない。


 みなさんも、この「ai」→「ee」で、ひとつ、江戸っ子ごっこをやってみておくんない。


 もっとも、「内外タイムス」を「ねえげえテエムス」、「グッドバイ」を「グッドベエ」なんてのは、さすがにやりすぎだ。物事には、ほどというものがございまして。

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「今日の嘘八百」


嘘三百八十六 今、江戸弁を使うのは、噺家とイナカモンです。


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