ちょっと

 少し観察してみるとわかるが、日本語では言葉を弱めることが多い。おれも今、冒頭で「少し」と書いたけれども、「少しばかり」とか「やや」とか「もしかすると」などと言葉を弱めたり、ぼかしたりする使い方が多いのだ。「白髪三千丈」とか、「怒髪天を突く」とか、誇張する表現が多い中国語とは対照的である(といっても、おれは中国語の会話をできず、あくまで故事・慣用句についての知識しかないけれども)。

 この頃気になりだしたのだが、会話の中で「ちょっと」という表現をよく聞く。印象としては仕事の場で多い。「ちょっとこの紙に書きましたように、ちょっと5日までにちょっと仕上げる必要があります」などと、やたらと言葉にくっつく。えー、とか、あのー、のようなフィラー埋め草言葉。英語ならwellとかyou know)とも捉えられるが、ちょっと違う気もする(あ、ちょっとを入れてしまった)。

「ちょっと」と使う裏には、相手を恐れる心理があるとおれはニラんでいる。話しながら及び腰というか、逃げ腰なのだ。直接の摩擦を恐れるココロで、「ちょっと」を無意識のうちに挟み込んでしまうのだと思う。

 それにしても、「ちょっと」という言葉、以前はこんなに会話の中に入り込んでいただろうか。おれの注意がたまたま最近「ちょっと」に向かっただけでもともとよく使われる表現だったのか、それとも割にこの頃になって流行りだしたのか。

 これをお読みの方も、まわりの人の言葉遣い(あるいは自分の言葉遣い)を注意してみていただきたい。特に仕事の、多少肩の凝る場では「ちょっと」が多用されていることに気がつくと思う。