正しい日本語?

 聞きなれない言葉遣いや、違和感を覚える言葉遣いに対して、「正しい日本語を使ってほしい」などと言い出す人が結構いる。

 たとえば、近頃、レストランなどで若いバイトの人が料理を運んできて、「こちら、ハンバーグになります」と口にすることが増えた。その皿に乗った物体が今からハンバーグになるのか? まだ現時点ではハンバーグではないのか?? それともお前がハンバーグに変身するのか??? などというのはもちろん言いがかりですね、ハイ。

 それぞれの言葉遣いには内的な論理が存在するはずで、「〜になります」という言い回しが広まっているということは、そういう言い回しをしたくなる相応の理由があるのだろう。もちろん、その言葉遣いに対する好き嫌いは別問題だ。

 おれは「正しい日本語」という考え方を疑惑のマナザシで見ている。極論すれば、正しい日本語なんてものはないんじゃないかと思っている。あるとすれば、「正しい標準語(共通語)」「正しいNHK的言葉遣い」であって、それはもちろん、正しい日本語というのとはちょっと違う。

 言葉というのは人と人の間を行き来する間に揺れ動く。揺れ動きながら変化していく。そうでなければ、わしらはいまだに「ありをりはべりいまそかり」などと言っておらねばならず、おそらく昔も、ありをりはべりいまそかり派の人たちは新しい変格活用が出てきた頃、怒り狂うか、ああはれと嘆くか何かしたはずでおじゃる。

 

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※ 写真は本文とは関係ありません。

 

 ついでに言えば、「正しい標準語(共通語)」「正しいNHK的言葉遣い」というのはとても規範的で、情緒的表現や感情のニュアンスを表すにはあまり向いていない。おそらく方言やいわゆる若者言葉がニュアンスを豊かに表現できるのは「正しい標準語(共通語)」「正しいNHK的言葉遣い」から離れて、自由さを持つからだと思う。

 繰り返しになるが、好き嫌いは別よ。好きな日本語表現、嫌いな日本語表現なら、人によっていろいろあるはずだ。ただ、目新しい嫌いな言葉遣いに対して、「正しい日本語」なるものを振りかざすのは、すり替えじゃあないかと思うのだ。