日本語文の特性 - 語順の自由さ

 前回、日本語は修飾する言葉が先に来るせいで複雑な構造の文章を書くのに向いていない、述語が最後にくるので文を読み終わらないと理解できないと書いた。

 しからば(鹿騾馬)、日本語は言語として劣っているのかというと、そう簡単には言えない。たとえば、英語と比べて便利な特徴もある。ひとつは述語以外の言葉の順番を割と自由にできることだ。

 英語は語順がかなり決まっている。「おれはおまえを愛している」と英語で書くときは、

I love You.

 とこの順番にするよりない。主語、述語、目的語という順番がひらの文では決まっているのだ。

 日本語の場合は、

おれはおまえを愛している。

おまえをおれは愛している。

 のふたつの書き方がある。上の文と下の文はニュアンスが少し違っていて、たいがいは先に来る言葉のほうが重く感じられる。このニュアンスの書き分けをするのが、日本語の文章を書く楽しみのひとつだとおれは思っている。さらには読点を使って、

おれは、おまえを愛している。

おまえを、おれは愛している。

 とすると、また違ったニュアンスが出てくる。

 もっとも、古来、日本ではこういうとき、

月がきれいだ。

 と表現すべきだという説もあり、言語表現はおそらく何語であれ、奥が深い。