全国推定800万人のベートーベン・ファンにはお詫び申し上げるが、おれはベートーベンが苦手だ。
聴くと、二日酔いのときにラードぎとぎとの料理を前にしたような心持ちになる。脂っこくて、大仰で、おまけに生真面目だから、胃腸虚弱のおれはなかなか折り合える地点を見出せない。
たとえば、交響曲第五番「運命」の有名な出だし。おれは聴くたびに、誇大妄想的な大袈裟さに笑い出したくなってしまう。
♪ ダダダダーン
「わはははははははは」
♪ ダダダダーン
「わははははははははははは」
(中略)
♪ バラバ、ダッ、バッ、ダーーン!
「ぎゃははははははははははははは」
♪ ダ・ダ・ダ・ダーーーン!!
(悶死)
実際にオーケストラが演奏するのを聴いたとき、ベートーベンは笑わなかったのだろうか。笑わなかったんだろうな。
勝手な想像だが、ベートーベンは冗談が苦手だったんじゃないかと思う。また、「照れる」という感情もあまり覚えなかったんじゃなかろうか。
人には、基調になるムードというか、底流というか、基本的な心持ちみたいなものがあるように思う。ある人は小唄的な心持ちを基調に生きているし、ある人は演歌、ある人はフォーク、ある人はロック、ある人はヒップホップを心持ちとして生きている。おれは、ベートーベンの大時代的な心根とははるかに遠い、小市民的なゲラゲラ気分のなかで生きているから、ベートーベンの曲にはなかなか共感できない。
そういう基本的な心持ちはだんだんと変わっていくものだから、いずれはおれもベートーベンがしっくりくるようになるのかもしれないが……その日は遠そうだ。
蛇足だが……と言っても、このブログ自体が蛇足の脱腸みたいなものだが、モンティ・パイソンでおれが好きなコントのひとつ。
こういうからかいは相手がベートーベンだからできるのであって、モーツァルトでもドビュッシーでも難しい。やはりベートーベンは特別だ。