アナキズムは優しく、美しい

アナキズム入門 (ちくま新書1245)

アナキズム入門 (ちくま新書1245)

 森元斎の「アナキズム入門」を読んだ。5人のアナキストプルードンバクーニンクロポトキン、ルクリュ、マフノの生涯を追いながら、アナキズムとは何ぞや、を説き明かす内容である。ネット的な文体も織り交ぜつつ時に講談的に血湧き肉躍り、よい読書体験だった。
 各章の題名を書く。

革命−プルードンの知恵
蜂起−バクーニンの闘争
理論−聖人クロポトキン
地球−歩く人ルクリュ
戦争−暴れん坊マノフ

 いかにも面白そうではないだろうか。
 おれはこれまでアナキストの著作を読んだことがない。その思想の一端にでもふれるのはこの本が初めてだ。
 高校の世界史の教科書か参考書で(三十年以上前だ)プルードンバクーニンクロポトキンの名前を見た覚えはある。ほとんど思想内容にはふれてなかったように思う。考えてみればそれはそうで、国家権力である文部省(今は文科省)が、国家権力を否定するアナキズムを学習指導要領に盛り込むわけがない。
 知りもしないくせに、おれは「プルードン」「バクーニン」「クロポトキン」という名前を見て、暴力的でオソロしげな印象を抱く。我ながら興味深い現象だ。ひとつには、おれがガキの時分にセックス・ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・UK」という破壊力バツグンの曲が流行ったせいもあるかもしれない。しかしそのせいばかりでなく、いろんなものを見聞き読むうち、おれには知らず知らずに「アナーキスト=暴力」というイメージが刷り込まれてしまったらしい。この偏見(世の空気みたいなもの?)の刷り込みのほうがオソロしい。
アナキズム入門」を読むと、アナキストの目指す世界はむしろ牧歌的なもののようだ。強圧的な国家権力がなく、人それぞれが相応に働き、小さめの共同体の中で話し合いで調整する世界。もちろん、そういう世界をつくるためには国家権力を倒さなければならないから、アナキストは時に蜂起もすれば殺人だってするわけだが、理想自体はむしろ心優しいイメージである。
 アナキズムの理想は美しい。しかし、残念ながら、アナキズムを実現できるかどうか、仮に実現できたとしても人が幸福になれるかというと、難しいのではないかとおれは思う。それについては来週にでも書こうと思う。