メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス

 大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス(Merry Christmas, Mr. Lawrence)」を見た。

 前に見たのは大学生か、社会人になりたての頃だと思うから、おおよそ三十年ぶりである。そのときは、坂本龍一のテーマ曲は印象的だったが、ビートたけし乱暴さと坂本龍一の大根ぶりばかりが目について、あまり好きにはなれなかった。
 それが、今、見ると、いいのである。デヴィッド・ボウイもいいが、ローレンス役のトム・コンティの控えめだが丁寧な演技が素晴らしい。
 太平洋戦争の初期、インドネシアの日本軍捕虜収容所の話である。坂本龍一が収容所長、ビートたけしが現場を仕切る軍曹、デヴィッド・ボウイが捕虜になった英軍中佐、トム・コンティが同じく捕虜で通訳の英軍中佐である。
 図式的に単純化すると、ビートたけしは百姓的な善良さと残虐性を持ち、日本軍という組織の中でその残虐さばかりがもっぱら現れる。デヴィッド・ボウイ個人主義的勇敢さを象徴する英雄的人物(彼の有名な歌に“Heroes”というのがありますね)。坂本龍一は「日本精神」を頼る人物だが、デヴィッド・ボウイ個人主義的な精神に脅かされる。そして、トム・コンティは欧米的な個人主義と日本の文化を理解しようとする気持ちの間で揺れ動く、優柔不断に近いほどの曖昧な人間で、この曖昧さの表現、演技が実にいいのだ。
 映像表現、演技、ストーリーにはいろんな綾があって、おれは今回、やっとある程度理解できた。三十年前には何を見ていたのだろう。もっとも、まだ理解しきれない、あるいは気づきもしないところもあるかもしれず、そのいくつも重なっていくような複雑さと、鮮烈な映像が優れた映画だと感じた。