イチョウとソメイヨシノ

 今年の東京は暖かく、12月も下旬に入ろうとしているのに、まだイチョウが葉を残している。
 イチョウは同じ場所に生えていても、早くに色づいて葉を落とす木もあれば、緑のままなかなか色づかない木もある。日当たりや土壌の差がそれほどなさそうなところでもそうだから、個体ごとの個性がかなり違うのだろう。雌雄異株、すなわち、木ごとにオス、メス分かれていることも関係しているのだろうか(雌雄異株のほうが遺伝子の組み替えの幅が大きくなりやすいとか。それとも、あまり関係ないのか)。
 イチョウ中生代、すなわち恐竜が闊歩していた時代から残っているんだそうだ。ただし、今、我々が目にするイチョウが唯一の生き残りの綱だそうで、そういう意味では億年レベルでしぶとい植物である。
 日本の街路樹を代表するといえば、イチョウとサクラだろう。サクラの街路樹の品種はもっぱらソメイヨシノである。
 ソメイヨシノは挿し木で殖やすから、どの個体も実は遺伝子が同じ、すなわちクローンである。春になると公園や岸辺、街路などでソメイヨシノが同時期にワッと花開く。あれは遺伝子が同じだからで、もし遺伝子が個体ごとに違っていたら、開花の日も個体によってバラバラになり、あれほど見事な風景にならないはずだ。
 一方で、もしソメイヨシノがかかりやすい伝染病が登場したら、いずれも同じ遺伝子を持つからいっせいに死滅してしまうことも考えられる。そうなると、今、花見でにぎわうあちこちのサクラの名所も一気に枯れ木の園となるだろう。
 イチョウとは対照的で、しぶとさという点ではあやうい品種である。生物多様性の重要さというのはそういうところにあるらしい。